朝比奈隆指揮大阪フィル ベートーヴェン第4番(2000.5.10Live)ほかを聴いて思ふ

1956年5月25日、朝比奈隆、ベルリン・フィル・デビュー。
そのときの思い出の作品が、ベートーヴェンの交響曲第4番。

いや、向こうさんが決めたことですから。厭なものをやらせやがるなと思ったけど、それが結局自分にとってむしろ幸せだったですな。皆が避けて通るやつをやって、結構出来が良かったものですからね。あれはフルトヴェングラー先生が死んだ直後でしたから、まだその時のメンバーが揃っていたわけです。だから私としては、そのスタイルの真似をするなんてさもしいことではないけれども、何かそれを尊重しながらやっていきたい・・・そんな気持がありました。
朝比奈隆+東条碩夫「朝比奈隆 ベートーヴェンの交響曲を語る」(音楽之友社)P74

朝比奈隆の第4番はスケールが大きい。
堂々たる風格を最初から最後まで微動だにしない重心を持って、聴く者を刺激する。白眉は、終楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポ!!
ともすると、一気呵成に快速で進められがちな楽章だが、冒頭からそのテンポのあまりの遅さに驚愕するほど。しかし、何ともそれが、音楽の全貌を隅々まで認識させてくれるのだから素晴らしい。

第4楽章も速くやったらだめでしょうな。速けりゃ勇ましくはなるけど、そういうもんじゃない。あのベルリンの時も、有名なローテンシュタイナーという、フルトヴェングラーの一の子分といわれたファゴット吹きが、フィナーレの練習を始める前に、私のところへ探りを入れに来た。彼はこの楽章の中で、気にする箇所が一つあるわけです。これは大変難しい。どんなタンギングを使うか。ダブル・タンギングを使えばかなり速く吹けますが、彼はシングルでやるつもりでいるから。大きなやつがファゴット持って、ひとの指揮台の前に来て、「そこはどのくらいのテンポだ」。私はもともと速くやるのはいけないと思っていましたから、「このくらいだ」と言ったら、にやっと笑って・・・。
~同上書P88

この後、朝比奈は、もし自分が速いテンポでやっていたら、客席より楽団に見離されていたのではないかと笑いを交えて話しているのだが、何という幸運。仮にベルリン・フィルのデビュー公演が成功していなかったら、後の朝比奈はなかったかもしれないのだから。

朝比奈御大最晩年の交響曲第4番変ロ長調作品60は、一切の淀みのない、あるいは迷いのない、最高のベートーヴェンだ。

ベートーヴェン:
・交響曲第4番変ロ長調作品60(2000.5.3Live)
・リハーサル風景(2000.5.3録音)
・交響曲第4番変ロ長調作品60(2000.5.10Live)
・リハーサル風景(2000.5.10録音)
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団

2000年5月10日は大阪、ザ・シンフォニーホール。
第1楽章序奏アダージョから遅いテンポで、思念を込め音楽が生成される。主部アレグロ・ヴィヴァーチェに移行する瞬間の劇的爆発が強烈。
そして、優美な第2楽章アダージョの穏やかさと静けさ。朝比奈のテンポは、旋律の美しさを際立たせる。第3楽章アレグロ・ヴィヴァーチェの深々とした度量に拝跪、その後の輝かんばかりのフィナーレについては、もはや言葉にならぬほど。
なお、終演後の相変わらずの歓喜の大喝采は最晩年の朝比奈への尊崇と讃美に溢れるもの。老練の芸術ここにあり。完璧だ。

目下は、3つの弦楽四重奏曲作品59、ピアノ協奏曲第4番作品58を契約します―お約束の交響曲(作品60)はまだお渡しできません。さる高貴な方が私から得るからで、しかし私は半年後に出版する自由は確保しています。
(1806年11月18日付、ベートーヴェンよりブライトコップフ&ヘルテル社宛書簡)
大崎滋生著「ベートーヴェン 完全詳細年譜」(春秋社)P183

充実の時を過ごすベートーヴェンの愛が刻まれる作品たちに乾杯。

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