昼から新宿でYと「リーダーシップ」について議論した。リーダーが組織を活性化させる上で会得しなければならないスキルとは・・・。これまでも様々な切口から語られているが、要は、適材適所-すなわちその人が最も能力を発揮できる役割を与え、そして何よりもその成果に対して賞賛を送る(誉める)ことによって個人の潜在能力が引き出され、結果、組織の飛躍に繋がる。
「リーダーシップ」とは、「能力」ではなく「状態」である。どんな人にも「リーダーシップ」力はある。ただ持てる能力を生かす場面を与えられていないか、本人が気づいていないか、または自分自身を否定しているのか、あるいは他者によって潰されているのか、なのではないか・・・。
いつも言うことだが、大事なことは「不完全な自分」を真に受容すること。そして、誰もが不完全であるということを認識し、許すことである。
それには「自分を知ること」が必要だ。客観的に自分を見つめ、長所も短所も知り、それを含めて自分という個性を受け入れ、願わくばその個性を伸ばしていくことだ。
人間は環境に左右されがちだ。特に「軸=アイデンティティ」が揺らいでいると、多数派の意見(それが正しかろうが間違っていようが)に対して自分が間違っているのではないかという危惧を抱いてしまう。自分を受容できない大きな原因の一つだろう。
「リヒャルト・シュトラウスの音楽で偉大なことは、それが芸術のドグマ(教義)主義の全て-様式、趣味、語法の全ての問題-、薄っぺらで時代に遅れた年代学者の全ての偏見、そうしたものを超越する一つの証しを提供し具体化してみせることである。それは、自分自身が生きる時代の一部にとり込まれないことによって自分自身の時代をより豊かにし、どの時代にも属さないことによってあらゆる世代の代弁をする人間の事例を我々に示している。それは個性の最高の証明であり、人間は時代が押し付ける一律性に縛られることなく、自分自身の時代統合法を創造できることの証明である。」(グレン・グールド~『ハイフィデリティ』誌1962年3月号)
R.シュトラウスは2度の世界大戦の最中にドイツ有数の音楽家として活躍し、人生の後半はまさにナチス第三帝国時代の荒波の中を、自らの命の危険をも顧みず「アイデンティティ」を貫いた天才であった。
ところで、「人間力向上セミナー」の中でいつも受講していただく方に差し上げる言葉にE.E.カミングスの次のような言葉がある。
「あなたをみんなと同じ人間にしてしまおうと、日夜励んでいる世の中で、自分以外の誰にもなるまいとするのは、人間のできうる闘争の中で最も厳しい闘いだ。そしてその闘いをやめてはならない。」(『自己実現への道』~M.ジェイムス、D.ジョングウォード)
まさに上記のグールドのいうR.シュトラウスが世界に対して示した姿勢と同義であるところが面白い。
R.シュトラウスの楽劇の聴きどころがCD1枚に収められたお得盤。忙しくてなかなかオペラの全曲を聴く暇のない方にもうってつけのアルバムである。この1枚でシュトラウスの甘美で魅力的な音楽世界に通ずる魔力を持つ(もちろん全曲をしっかりじっくりと聴くに超したことはないが)。あの不幸な時代に自身の「軸」をぶらさず、意思を追求すると同時に傑作を生み出していく原動力とは、やはり音楽を愛する心と聴衆への(つまりファンへの)「想い」なのだろう。
リヒャルト・シュトラウスこそ20世紀の音楽芸術の行く末を案じつつその職責を一身に背負い、自らの信念を貫きながら大衆へのサービスも忘れなかった孤高のリーダーだろうと考える。
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