King Crimson “Red (40th Anniversary Series)” (2013)

ソフィア・グバイドゥーリナの「ペスト流行時の酒宴」は、心底響いた。
今も頭の中でぐるぐる。
あの凶暴さ、あの静けさは、どこかで聴いたものだとずっと思っていたけれど、やっぱりあれはロック・ミュージックだと得心した。しかも、感情を揺るがすのでなく、頭脳をコテンパンに打ちのめす、実に計算高い理知の音楽だということに僕は驚愕する。
さらに、その上に塗り重ねられる標題性。彼女は、イメージを見事に音化する才能に長けている人なのだと思う。

昨日の粋なプログラミングの効果は素晴らしかった。
動静相交じる妙。
暴動の音があり、祈りの音がある。

ロバート・フリップ、ジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォード、そしてデヴィッド・クロスががっぷり四つで対峙するロック・ミュージックの金字塔。
“Red”と”Starless”という対比然り、”Starless”の前半と後半の対比然り、人間の魂は時に激性を欲し、時に静寂を欲するのだろうか。戦争と平和が対だというのもわからなくはない。優れた組み合わせとは対照際立つものなのだ。

・King Crimson:Red (40th Anniversary Series) (2013)

Personnel
Robert Fripp (electric guitar, Mellotron)
John Wetton (bass, vocals)
Bill Bruford (drums, percussion)
David Cross (violin, cello, Hohner pianet)
Mel Collins (soprano saxophone)
Ian McDonald (alto saxophone)
Mark Charig (cornet)
Robin Miller (oboe)

大傑作。よくもこんな代物を拵えることができたものだと思う。
大袈裟だけれど、奇蹟だ。
リリース直前にグループは突如解体されるのだから。
100人以上のオーケストラが織り成す狂乱と緻密で分厚い音響をたった8人で支えるロック音楽の魔法。

後にフリップは、突然の解散宣言のとき、自身の内側で起こっていたことを次のように説明している。

何かを握り締めたような感覚がして、頭がフッ飛んだみたいだった。簡単に言えばこうなるかな。それから3ヶ月から6ヶ月間は、僕の全機能がストップしてしまった・・・そう、エゴがどこかへ行ってしまった。3ヶ月ものあいだ、まったくエゴを失っていたんだ。僕はちょうど「レッド」のレコーディングに入っていたんだが、田尾絵葉ビルが「ボブこれどう思う?」と話しかけて来ても、「ウ~ン」。心の中では、どうして私にそんなことがわかるんだい?って。僕は意見を言えるような人間じゃなかったんだ。そして、ただ「君はどう思うんだい? ビル、君の言う通りだよ」なんて言ってる・・・日常生活に戻れるほどのフリップ自身を取り戻すために、3ヶ月から6ヶ月もかかったよ。
エリック・タム著/塚田千春訳「ロバート・フリップ―キング・クリムゾンからギター・クラフトまで」(宝島社)P105-106

まるでフリップが解脱したかのような印象を受けるが、ただ単に鬱状態だったのだろうと僕は想像する(体力的にも精神的にももはや限界だったのである)。それは、独断の一方的な解散宣言という点からみても明らかだ。

ちなみに、ウェットンはこう語る。

解散した時は頭に来たよ。初めはそんなこと認めなかったけどね・・・。ロバートから電話があって、今までのように続けられないわけを説明された。彼は「世界が終わりに近づいている。僕はそれに備えておきたいんだ」って言ってたな。僕も言ってやったよ。「OK。きっとそうだろう。でも、まずツアーが先決だよ」ってね。
~同上書P107

現実的なジョン・ウェットン。だからこそキング・クリムゾンはまた永遠のマスターピースを創造することができたのだろうと思う。この時期のキング・クリムゾンのライヴに触れられなかったことは人生最大の痛恨事の一つ。2015年にライヴに触れたとて、癒されず。無念。

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