朝比奈隆指揮新日本フィル ブルックナー 第4番「ロマンティック」(1979.3.8Live)

常に進化し続けた朝比奈隆のブルックナー。
それは、縦に揺れ、また横に伸縮する方法から、微動だにしない、極限の安定の中でまるで「無極」を想像させる音楽となって聴く者の真に迫る。

朝比奈隆は、実に人間味溢れる親父だった。
音楽のあの動性は、80歳近くなった時期においても(同業となった)息子に対抗心を燃やすほどの血気盛んな性格から生み出されたもののようだ。

「朝比奈の息子がなにをやるのか」と楽壇で注目が集まり、千足は選曲に苦慮していた。そんなとき、音楽評論家小石忠男の助言を得た。
「小石さんは、逃げないで思い切って親父と同じレパートリーをぶつけたほうがいいと、アドヴァイスしてくれました。ブルックナーをやったほうが面白い。こういうのがあるよ、とブルックナーの4番の初版版を紹介してくれたのです。これは日本初演となり、レコードも作りました。その演奏会を親父は聴きに来ましたが、それを快しとはしないのです。『なんでそんなものやるんだ』というような。ライバル意識というのでもないのでしょうが、なにかにつけて指揮者になってからは・・・」

中丸美繪「オーケストラ、それは我なり―朝比奈隆4つの試練」(文藝春秋)P272

残念ながら僕は朝比奈千足のこの初演のレコードは知らない。
果たしてそれがどんな演奏だったのか興味深いところだが、それにも増して興味をそそられるのは、すでに著名となっていた父朝比奈隆が思いの外反応している点だ。

またホノルル・シンフォニーの指揮の話が来たとき、朝比奈はこれを一蹴した。朝比奈はハワイ嫌いである。中流意識で「ちゃらちゃらとした人々」が好んでいくハワイ。そんなところのオーケストラなんて、というわけである。
このとき千足は「その演奏会を僕にください」とマネージャーに積極的に申し出た。ホノルル・シンフォニーは「小澤征爾も指揮している立派な交響楽団」との認識があったからだ。結果として千足は「未完成」などを演奏して大成功をおさめた。現地の日系人たちも喜び、ふたたび招聘されることになったのである。
ところが、興味のないはずの父が今度は息子の代わりに指揮すると言い出し、千足の妻を通訳に使って、ハワイに飛んでその演奏会を指揮してしまった。

~同上書P273

オーケストラと言えど営利組織であり、また、音楽家と言えど指揮は生活のための糧を得る生業である。朝比奈隆が、よく言えば実にビジネス嗅覚鋭い、悪く言うと駆け引きと計算に長けた人だったことが様々なエピソードからうかがえる。

実際、朝比奈隆がホノルル響を振った音盤(朝比奈会頒布の非売品)が残されている。
1985年3月12日は、定期演奏会における実況録音。ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」。これは本当に動きのある熱い(隠れた)名演奏として名高いものだ。

朝比奈隆の「ロマンティック」は揺れる。最晩年のNHK交響楽団との演奏は、インテンポで進められる崇高な名演として名高いが、それ以前は、ほとんどこの作品と格闘するかの如く朝比奈は苦心しているように思われる。

・ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(ハース版)
朝比奈隆指揮新日本フィルハーモニー交響楽団(1979.3.8Live)

東京文化会館における第67回定期演奏会の記録。
まるで目の前に御大が生き返ったかのような息吹までもが見える「ロマンティック」。その後の、徐々に完成されいく中での比較的初期の、挑戦心むき出しの朝比奈隆のブルックナーは、楽章を追うごとに俄然エネルギッシュになっていく。
素晴らしいのは、終楽章の、時に獰猛ともいえる破壊力満載の解放か。
コーダに向かって突き進む音塊が聴く者を虜にする。何と人間的なアントン・ブルックナー。

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