バルシャイ指揮ケルン放送響 ショスタコーヴィチ 交響曲第11番「1905年」(1999.5録音)

人間はみな―賢者から最低の盗人に至るまで、道こそ違え、やっぱり同じものを目ざして行こうとしているんだ。こんなことは誰でも知ってることで、どうって話でもない。でも、そこには何か新しいものがある―この点についちゃあ、おれも、そうそうしどろもどろしているわけにはいかない。なぜって、おれは真理を見てしまったのだから。だから知ってるんだ。地上に棲む能力を失うことなく、人気は美しく幸福になれることを、おれは知ってるんだ。
ドストエフスキー作/太田正一訳「おかしな人間の夢」(論創社)P95

ロシアの文豪ドストエフスキーの短編小説「おかしな人間の夢」の一節。
これが実に的を射た、というか、真理を射抜いた傑作で、ドストエフスキー・ファンのみならず、多くの方に読んでいただきたい一冊なのである。

今朝、僕もおかしな夢を見た。
そこはどこか定かでない、教室のような一室。音楽をかけ、陶酔しながらつい居眠りをしてしまった僕は、どれだけの時間を経たのか、とんでもない爆音で目が覚めた。そこで僕が目にしたのは、ドミトリー・ショスタコーヴィチらしき人間(学友?間違いない)が、迷惑そうな顔をして、音量のつまみを足早に下げに行く姿。「あれ、いやいや、それ、君が創った音楽だよ」と我に返ったところで覚醒。
ショスタコーヴィチが友人だというのもおかしな夢だが、そこで鳴っていたのが、彼の交響曲第11番「1905年」であり、それがとてもリアルだったことが余計におかしかった。
何という激しい音、何という暴力的な音響。1905年の、いわゆる血の日曜日事件を題材にした不朽の交響曲が、何と作曲者自身の感性までをも圧し潰すほどなのだから面白い。

ロシアの歴史のなかでは、多くのことがくり返されているように思われる。もちろん、同じ事件が正確に二度くり返されるわけではなく、相違もあるにちがいないが、それでもやはり、多くのことがらがくり返されている。国民はそれらにたいして同じように考え、同じように行動する。このことは、たとえばロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキイ(1839-81)を研究すれば明らかとなる。あるいは、トルストイの「戦争と平和」を読んでも明らかである。
この反復を、わたしは第11交響曲のなかで示したいと思った。この交響曲を作曲したのは1957年で、《1905年》と名づけられているとはいえ、現代の主題を扱っていたのである。かずかずの悪業に耐えられず、支配者への信頼を失った国民についての曲である。

ソロモン・ヴォルコフ編/水野忠夫訳「ショスタコーヴィチの証言」(中公文庫)P27

対立する2つの事象の狭間で、世界は矛盾に満ちた成り立ちをしてきた。そして、それは決して避けることのできない人類の業なのだとショスタコーヴィチは考えていた。確かにあの時代はそうだ。しかし、今や人類は覚醒の、業を超える法を獲得しつつある(だろう)。

ルドルフ・バルシャイの指揮するショスタコーヴィチは、どれもがリアルだ。僕が夢に見た途轍もない絶叫は、バルシャイのショスタコーヴィチだった。

・ショスタコーヴィチ:交響曲第11番ト短調作品103「1905年」
ルドルフ・バルシャイ指揮ケルン放送交響楽団(1999.5.3-7録音)

野趣あふれる、否、怒れる民衆の煽動の音化とも言うべき絶対交響曲。
それぞれの楽章に掲げられる標題などある種のまやかしであり、方便だ。特に、第2楽章「1月9日」の音調の凄まじさ(情景描写、心理描写のリアル感!これぞ夢で見た轟音)は言語を絶し、バルシャイの解釈も、身につまされる悲哀の情を催すものだ。そして、緩徐楽章である第3楽章「永遠の記憶」の静けさと深遠さ。いや、ここにあるのは祈りと希望だ。

夢を見ただと! 幻覚だと! では、そもそも夢とは何であるか? いま生きてるこの人生だって夢じゃないのか? いや、さらに一歩すすんで言おう―たとえ、たとえこれが決して実現することがなく、地上の楽園などあり得ないとしても、まあいいだろう(そんなこと、もうおれにだってわかってる!)、ああ、でもやっぱりおれは伝道を続ける! じっさい、それは、思ってるほど難しいことじゃないのかも。一日もあれば、いやたったの一時間で、何もかもがあっと言う間に出来上がってしまうかもしれないんだ!
肝腎なのは〈自らを愛するごとく他を愛せ〉ということであって、これが一番の眼目だ。これがすべてであって、これ以上は何も、まったく何も要らない。これさえわかっていれば、どう実現するかなんて、たちどころにわかってしまう。

ドストエフスキー作/太田正一訳「おかしな人間の夢」(論創社)P98-99

終楽章「警鐘」の興奮!
ショスタコーヴィチは、創造の中の破壊を大事にしたが、彼自身も気づかぬうちに抑圧された側面が音の隅々にまで投影され尽くしてしまったのかも。夢から醒めよと唸るような名曲だ。そして、実に煽動的な演奏だ。

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