ユーリ・ケイン・アンサンブル ゴルトベルク変奏曲(part 1)

奇天烈と言えば、確かにそうか。
作曲家への冒涜と言われれば、それもそうか。
否、これは天衣無縫の、空前絶後の、バッハの脳みそを借りた天才の顕現なのだと僕は思う。ユーリ・ケイン・アンサンブルによる異形のゴルトベルク変奏曲。この見事な変奏、否、変装を楽しむ柔軟さこそが新たな時代を生きる重要なポイントなのだとまた思う。

アリア主題は、ユーリ・ケインのジルバーマン・フォルテ・ピアノによるオーソドックスな、極めて古典的な表現。続く、ユーリ・ケインの同じくフォルテ・ピアノとヴィットリオ・ギエルミのガンバ合奏による第1変奏のあくまでクラシカルな創意、そして、第2変奏は、ポール・プランケットの華麗なバロック・トランペットをフィーチャーした、短くも霊感溢れる四重奏(ユーリ・ケイン:ハープシコード、アルノ・ヨッヘム:ガンバ、アンネグレット・ジーデル:ヴァイオリン)。いやはや、筆舌に尽くし難い癒し。
しかし、本領はここから。

・ユーリ・ケイン・アンサンブル:ゴルトベルク変奏曲

「イントロイトゥス(入祭唱)・ヴァリエーション」は、グレゴール・ヒュブナー(ヴァイオリン)、ケットヴィガー・バッハ・アンサンブル、デヴィッド・モス(ヴォーカル)という布陣。敬虔なるケットヴィガー・バッハ・アンサンブルによるヴォカリーズ・コーラスを伴奏に、デヴィッド・モスの不明瞭な、言葉にならない、呟きのような「声」が重なるときの聖俗混淆の官能(?)。また、ディーン・バウマンのこぶしの利いたヴォーカルが素晴らしい「ディグ・イット・ヴァリエーション」の色香にも乾杯。
さらには、DJロジックによる、わずか38秒の「ロジックのインヴェンション」の開放から、続く「スタッターイング(吃音)・ヴァリエーション」は、文字通り「呂律の回らない」ような音の遊びに翻弄される(ラルフ・アレッシ:トランペット、ドン・バイロン:クラリネット、ラルフ・ピーターソン:ドラム、ジョシュ・ローズマン:トロンボーン、ボブ・スチュワート:チューバ)。

ユニゾンのカノンである第3変奏は、第2変奏と同じ布陣。また、「スタッターイング・ヴァリエーション」と同メンバーによる「ホット・シックス・ヴァリエーション」は、ジャズ・アレンジの喧騒なる逸品。そして、ユーリ・ケインのキーボードとブーミッシュによる録音を合わせた第5変奏(+8)の電子音的アプローチは、何と軽快で人の心を鷲づかみにするのだろう。

バッハの各変奏に挟まれる魔法。ユーリ・ケインのピアノとケルン弦楽四重奏団による「ラフマニノフ」の懐かしい調べ。また、「ジキル博士とハイド氏」ヴァリエーションは、コルドゥラ・ブロイアーのソプラノ・リコーダーの癒しに、例によってデヴィッド・モスの奇天烈な声が合わさり、何とも不思議な空間を創り出す(ラルフ・アレッシ:トランペット、コルドゥラ・ブロイアー:ソプラノ・リコーダー、ドン・バイロン:クラリネット、ユーリ・ケイン:ピアノ、ミチャエル・フライムート:リュート、ドリュー・グレス:ベース、アルノ・ヨッヘム:ガンバ、デヴィッド・モス:ヴォーカル、アンネグレット・ジーデル:ヴァイオリン)。続く、50秒の「ヴィヴァルディ」の爽快さ。やはり、ポール・プランケットのバロック・トランペットが明快だ。さらには、ユーリ・ケインのピアノとグレッグ・オスビーのアルト・サックスによるサキソフォーンとピアノのためのヴァリエーションのアンニュイさ。

ヴィオラ・ダ・ガンバ・イタリア四重奏団による第4変奏が、何と心に沁みるのか(バッハの魂が心底に鳴る)。さらには、ユーリ・ケインのピアノ独奏による「ワルツ・ヴァリエーション」の愉快。また、ユーリ・ケインのキーボード、ケットヴィガー・バッハ・アンサンブルとデヴィッド・モスによる「キャロル・ヴァリエーション」の透明感を超え、第2カノンである第6変奏をコルドゥラ・ブロイアーのバロック・トラヴェルソ・フルートを軸にした古典的変容の懐古。

ユーリ・ケインのピアノ独奏が弾ける「ストンプ・ヴァリエーション」に血沸き、「ノーバディ・ノウズ・ヴァリエーション」(ユーリ・ケイン:ハモンド・オルガン&ピアノ、バルバラ・ウォーカー:詩&ヴォーカル、レジー・ワシントン:エレクトリック・ベース、ラルフ・ピーターソン:ドラムス)に僕は肉躍る。4分の3拍子による第3のカノンを経て、ミヒャエル・フライムートによるリュートとアンネグレット・ジーデルのヴァイオリンによる第7変奏が何と可憐なことか。第9変奏はユーリ・ケインの即興的なピアノを伴奏にトランペット(ラルフ・アレッシ)、ドン・バイロン(クラリネット)、レイド・アンダーソン(ベース)が見事なインタープレイを披露する。それにしても、続く第10変奏フゲッタ(ケットヴィガー・バッハ・アンサンブルとデヴィッド・モスのヴォーカル)にある遊びの精神の素晴らしさ。そして、DJロジックとブーミッシュによる録音ソースにユーリ・ケインのキーボードが加わる第11変奏の未来的発想に興奮。トッド・レイノルドによるヴァイオリンとピアノのための変奏は、現代的音色にやはりジャズの音調を付加した絶品。第4のカノンである第12変奏のアルト・リコーダーの音に心奪われる(コルドゥラ・ブロイアー:アルト・リコーダー、ミヒャエル・フライムート:リュート、アルノ・ヨッヘム:ガンバ、アンエグレット・ジーデル:ヴァイオリン)。

ところで、バッハの本来の姿に戻るユーリ・ケインのピアノ独奏による第13変奏が何て哀しく懐かしいのだろう。そして、ディーン・バウマンのヴォーカルによる「ハレルヤ・ヴァリエーション」が肉感的、また俗世的で、バッハの変容体の相を示し、面白い。続く、ユーリ・ケインの「ヴェルディ・ピアノ・デュエット・ヴァリエーション」の楽観と、「ルーサーの悪夢ヴァリエーション」の耳に喧しい興奮の対比の妙。ユーリ・ケインのピアノとケットヴィガー・バッハ・アンサンブルの4分の6拍子の第6のカノンが美しい。

「ジェイバード・ラウンジ・ヴァリエーション」は、トランペットとアルト・サックスをフィーチャーしたジャズの王道を示す。また、ユーリ・ケインのキーボードとブーミッシュの録音ソースをアレンジした第14変奏の創意の工夫が見事(何と現代的なバッハであり、ゆえにバッハの音楽の器の大きさが理解できる)。そして、第5のカノンである第15変奏は、バロック的三重奏の編成で柔らかく、篤く歌われる(コルドゥラ・ブロイアー:アルト・リコーダー、アルノ・ヨッヘム:ガンバ、アンネグレット・ジーデル:ヴァイオリン)。

ラテン的楽想の「コントラプント・ヴァリエーション」の大歓喜!(何と4分25秒!)
ラルフ・アレッシ(トランペット)
マルコ・ベルムデス(歌詞&ヴォーカル)
ユーリ・ケイン(ピアノ)
ミルトン・カルドナ(パーカッション)
ジェームズ・ジーナス(ベース)
グレッグ・オスビー(アルト・サックス)
ラルフ・ピーターソン(ドラムス)

そして、ユーリ・ケインの「ピアノ独奏によるヴァリエーション」の前衛的、打楽器的ピアノ音楽の妙。快感的ジャズ編成の4分の5拍子の第5のカノンを経て、ケットヴィガー・バッハ・アンサンブルによる「コーラル・ヴァリエーション」に垣間見る信仰の光に恍惚となる。

ユーリ・ケインによって解体されたバッハの至高の音楽が、70の変奏によって語られる妙。長くなるので後半はまた別の機会に聴くことにする。

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