アバド指揮ベルリン・フィル ベートーヴェン 劇付随音楽「献堂式」ほか(1993&1994録音)

アウグスト・フォン・コツェブー原作の「アテネの廃墟」にカール・マイスルが多少手を加えた「献堂式」。

(1822年)10月3日に予定されたヨーゼフシュタット劇場の再オープンの演目、マイスルの祭典後劇《献堂式》に触れておく。それには当初、《アテネの廃墟》の音楽(Op.113)を転用するつもりでいたが、ベートーヴェンは新しい序曲(Op.124)と合唱付舞曲(若々しく息せき切るところ)(WoO98)も提供することを決意する。そこで9月末に急遽、この2つの作品が作曲された。
大崎滋生著「ベートーヴェン像再構築3」(春秋社)P976

生活と純粋な創造行為と、その狭間でベートーヴェンが聖俗のスイッチ(?)を頻繁に切り替えざるを得なかった状況が垣間見え、実に興味深い。中でも、畢生の大作ミサ・ソレムニスと人類の至宝たる交響曲第9番に近接して創作された10分ほどの「献堂式」序曲の、簡潔でありながら遠心力の高い開放的な音楽に、数々の苦難を抱えるベートーヴェンにあって希望と歓喜を忘れない彼の魂の純粋さを思う。

そういえば、嘘か真か、ベートーヴェンの辞世の句は「諸君、喝采を! 喜劇は終わった」だったといわれる。それは、彼が、この世界が仮であり、真の世界は、人類は元々一つであることを悟っていたであろうことを物語る。「献堂式」にも「皆大歓喜」の音が聴こえるようだ。

ベートーヴェン:
・カール・マイスルの祭典後劇「献堂式」付随音楽(アウグスト・フォン・コツェブーの劇「アテネの廃墟」付随音楽をもととする)
シルヴィア・マクネアー(ソプラノ)
ブリン・ターフェル(バリトン)
ブルーノ・ガンツ(朗読)
エルンスト=エーリヒ・ブダー(朗読)
・フリードリヒ・ダンカーのドラマへの音楽「レオノーレ・プロハスカ」WoO96
シルヴィア・マクネアー(ソプラノ)
マリー=ピエール・ラングラメ(ハープ)
カロリーネ・アイヒホルン(朗読)
サシャ・レッケルト(グラスハーモニカ)
ベルリン放送合唱団
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1993.2, 1994.2&12録音)

我々ベルリン・フィルのみならず、他の文化機関で仕事をする人々も、ある一つのテーマに心躍らせ、あらゆる方向からテーマを深めていくことを期待しています。文学、映画、音楽の各ジャンルの研究が、多かれ少なかれ、本来の主要な催し物と直接に結びつきます。(・・・)毎年の中心的テーマを決めることは、類似、連想、メタファーを生かすことでもあります。
ヘルベルト・ハフナー著/市原和子訳「ベルリン・フィル あるオーケストラの自伝」(春秋社)P373

当時、アバドはこういう声明を出し、ベルリン・フィルと共に数々のチャレンジをした。しかし、マスコミに叩かれ、聴衆の離反を引き起こし、その試みはことごとく否定された。しかし、30年近く後年の視点から俯瞰すると、新しきことに常に意識を置いたアバドの方法は、音楽というもののすそ野を広げる上で、そして、聴衆の意識を覚醒させる上で、とても大切なものだったと痛感する。

何より「献堂式」の確信に満ちた堂々たる音。マクネアーやターフェルの歌唱も本当に素晴らしい。アバドの作る音楽も、清澄で、そして真っ直ぐで、何よりベートーヴェンへの共感に溢れる。

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