デュトワ指揮モントリオール響 ベルリオーズ 劇的交響曲「ロメオとジュリエット」ほか(1985.5&10録音)

例えば仮に、音楽が芸術であると同時に科学であるとしよう。それを深く知るためには複雑で長い時間をかけた研究が必要だ。それに感動するためには教養と訓練された聴覚が必要だ。そのうえ作品同士を比較できるようになり、教わったことがないたくさんのことを知るためには、豊かな記憶力が必要だ。ところが、音楽について知りもせずに我が物顔でとりとめのないことを言うくせに、建築や彫刻、その他自分に縁のない芸術についてはふれないように気をつけている人がいるのだ。このような人たちは偏執狂に違いないだろう。
エクトル・ベルリオーズ/森佳子訳「音楽のグロテスク」(青弓社)P27

ベルリオーズの思考はおそらくワーグナーのそれに近い。逆に言うならば、ワーグナーの芸術もベルリオーズの芸術も、理解する上でその作品にまつわる周辺の膨大な知識が必要となる。そして、ひとたびそういう知見を借りながら作品を自分のものにできたときの喜びは他の何ものにも代え難い。

僕は二十世紀バレエ団を見て、劇的交響曲「ロメオとジュリエット」の存在を知った。かれこれ35年ほど前のことだ(所有する音盤は西ドイツ製であることが懐かしい)。あの頃は、ベルリオーズのこの大作を理解するには到底及ばなかった。これまでの長い月日を経て、あらためて稀代の天才の空想的交響曲に耳を傾け、いかにもベルリオーズらしい大言壮語の音楽に、そしてその音響効果に心から感動を覚えるのである。

ところで、作曲者は、この作品の序文を残している。
概略は、次のような内容になる。

この作品の本質を誤解されることはないだろう。声楽が頻繁に使われるが、本作はコンサート形式のオペラでもカンタータでもない。合唱付の交響曲なのだ。
ほぼ最初から声楽を取り入れる目的は、それぞれのシーンを聴衆に理解させるべく、オーケストラにその時の感情や情熱を表現させるためである。そして、もう一つの目的は、突然出現することで作品の統一性を台無しにしないよう、徐々に発展する合唱の力を聴衆に見せつけるため。したがって、プロローグは、シェイクスピアのドラマのプロローグのように、合唱を使って動きを表現した。ここではたった14人の声で歌われている。その後、キャピュレット家の男声合唱のみが(ステージ外で)聞こえる。 そして、葬式のシーンでは、キャピュレット家(男声と女声)の声が聞こえる。フィナーレの初めには、ロランス神父と同じく、キャピュレット家とモンタギュー家の2つの完全な合唱が参加し、最後に3つの合唱が組み合わされるのだ。
2つの家族の最後の和解のシーンは、オペラまたはオラトリオにおいては特殊な領域だが、シェイクスピアの時代から舞台に描かれておらず、美しすぎて、また音楽的すぎて、作曲家が他の方法でそれを扱うことを考えることができないほどの作品だと考えられてきた。
例えば、有名な庭園と墓地のシーンで、2人の恋人たち、すなわちジュリエットの側近とロメオの情熱的な御者の対話が歌でなかったら、代わりに愛と絶望の二重唱がオーケストラに限定されていたら、など、その理由はたくさんあり、また明白だ。第一に、この作品はオペラではなく交響曲なのだ。この事実だけでもはや私の言うことはわかるだろう。また、この種の二重唱は偉大なる巨匠たちによって過去何千回も歌として扱われてきているので、別の表現方法を試すことが賢明であり、それこそが実際に挑戦的だと思うのだ。そして、それ以上に、ラブストーリーの気高さが作曲家に描写をとても難しいものにしていて、私は想像力を一層自由に羽ばたかさなければならなかったのだ。

(エクトル・ベルリオーズ)

いまだ前期ロマン派といわれるあの時代にあって、ベルリオーズの画期的創造力と、稀有な想像力に舌を巻く。何より管弦楽の多様な扱いとその色彩の妙!!

ベルリオーズ:
・劇的交響曲「ロメオとジュリエット」作品17
フローレンス・クイヴァー(メゾソプラノ)
アルベルト・クピード(テノール)
トム・クラウゼ(バス)
モントリオール・チューダー・シンガーズ
モントリオール合唱団
・葬送と勝利の大交響曲作品15
モントリオール交響室内合唱団
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1985.5&10録音)

文字通り、創造力の飛翔する、時間的空間的拡がりのある、ベルリオーズ独自の方法を、何とセンス満点に音化するデュトワの棒。何より管弦楽のみによって紡がれる第2部「愛の場面」など、実に神々しく、また官能的だ。物語を音だけで描写する、虚言妄想癖の強いベルリオーズならではの魔法といっても言い過ぎでなかろう。

1839年11月の初演を聴いたリヒャルト・ワーグナーは感激のあまり言葉を失ったという。わかる気がする。ワーグナーの綜合芸術の先取りのようなこの大交響曲は、できるならたった一人ヘッドフォンで浸った方がよく理解できるだろう(時折響く「幻想交響曲」の木魂!!)。

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