デュトワ指揮モントリオール響 プロコフィエフ バレエ音楽「ロメオとジュリエット」(1989.10録音)

演劇作品に付随音楽を書く際のわたしの方法は、舞台監督がどのような音楽を自身の作品のために求めているのかを言ってもらうようにすること、そして主題についてのわたしの考えを伝え、わたしたちがある種の和解に至るまで何度も議論を交わすことである。
田代薫訳「プロコフィエフ自伝/随想集」(音楽之友社)P181

プロコフィエフの方法は、当然と言えば当然なのだが、実に的を射ている。少なくとも彼は、聴衆に「ウケること」が前提なのだ。それゆえに、少なくとも亡命から帰国してからの彼の作品は、その評価の是非はともかくとして、あるいは社会主義リアリズムに堕落した(?)ものであるかどうかも別にして、とてもわかりやすい。ロシア的憂愁が土台にあり、同時にロシアの民謡の影響もある音楽は、少々古びた印象を僕たちに与えるが、人々の内面に歓喜を与えるという意味においては、絶大な効果を発揮するものだ。

バレエ音楽「ロメオとジュリエット」の音楽は、美しさの極み。何より情景描写の具体性と巧みさ。シャルル・デュトワが、52曲の全曲から聴きどころを24曲選曲し、録音したアルバムが何と充実していることか(願わくば全曲の録音が欲しかった)。

プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」作品64(抜粋)
・導入曲
第1幕
・ロメオ
・街の目覚め
・朝の踊り
・喧嘩
・決闘
・太守の宣言
・少女ジュリエット
・客人たちの登場(メヌエット)
・仮面
・騎士たちの踊り
・バルコニーの情景
第2幕
・フォーク・ダンス
・ローレンス僧
・踊り
・ティボルトとマーキュシオの決闘
・マーキュシオの死
・ロメオはマーキュシオの死の報復を誓う
第3幕
・前奏曲
・ロメオとジュリエットの別れ
・百合の花を手にした娘たちの踊り
・ジュリエットの葬式
・ジュリエットの死
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1989.10録音)

第1幕第2場、「少女ジュリエット」の可憐さ、あるいは第1幕第3場「仮面」でのユーモラスで軽快な音楽に、ジュリエットに魅せられ心躍るロメオの思念を思う。そして、今や有名な第4場「騎士たちの踊り」の、主題部と中間部の動と静の対比の素晴らしさ。さらに歓喜に溢れる二人の愛の語らいを表現する第5場「バルコニーの情景」の静かな官能。このあたりのデュトワの棒は絶好調だと思う。
それにしてもクライマックスを形成する第3幕の抜粋曲の流れが見事。前奏曲のおどろおどろしさと静寂の描写から、夜明けとともにマントヴァへ旅立つロメオを描く第1場「ロメオとジュリエットの別れ」の恍惚。壮絶な第3場「ジュリエットの葬式」の、金切り声をあげる弦の響きに感涙。そして、二人の悲劇的な死の場面での音楽は、真に平和的だ(ここにモンタギュー家とキャピュレット家の和解が成立する)。

ベートーヴェンとシェイクスピア、モーツァルトとトルストイ、チャイコフスキーとディケンズ、これら人間頭脳と魂の巨人たちの人生を思い出してみよう。彼らが偉大だったのはまさに自分自身の道義心の指示に従い、その才能を人類のために仕えることに捧げたからではないだろうか? 彼らが不滅なのは、このためではないだろうか?
(「音楽と人生」(1951))
~同上書P228

同感だ。

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