マタチッチ指揮NHK響 ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」(1975.12.10Live)

スラヴ系の音楽にこれほどの適合を見せるのはこの人ならでは。
土俗的であり、また一切の虚飾のない、自然体のドヴォルザーク。そこには、作曲家の内なる祖国への哀愁が刻まれ、また新世界における新たな挑戦心までもが垣間見える。この異様な(?)熱さはマタチッチならではだと思う。それに、N響がいつになく弾けていて、火花が散るような壮絶な瞬間が多々見られるのだから興味深い。オーケストラは指揮者の棒に完璧にコントロールされ、同時に自分たちの実力以上のものを出し切っているのである。終楽章コーダの思い入れたっぷりの表情が何とも堪らず感動的だ。

ドヴォルザークは1892年秋、ニューヨーク・ナショナル音楽院の創立者ジャネット・サーバー女史に年俸1万5千ドルの高給で招かれて渡米し、その院長を95年春まで勤めた。その間、今日とは比べものにならないくらい人種差別が激しいなかで黒人の学生にはとくによく目をかけ、黒人霊歌、それに黒人以上に迫害されていた原住民インディアンの実態とその音楽にも強くひかれるようになっていく。それがアメリカの大自然の壮観に接して受けた感動や日増しにつのる母国への郷愁とも結びついて、最後の交響曲となった第9番《新世界より》(1893年)、弦楽四重奏曲第12番ヘ長調(1893年)、《聖書の歌》(1894年)、チェロ協奏曲ロ短調(1894~95年)などの人気作を生んだ。
作曲家別名曲解説ライブラリー6 ドヴォルザーク」(音楽之友社)P14

いわばアイデンティティを統合し、自他の境界をなくすべく生み出されたのがドヴォルザークのアメリカ時代の諸作だといえまいか。そこには彼の内なる感動と、一方で疎外感、孤独感が秘められている。それゆえに、これらの作品は人々に底知れぬ感動を与えるのだ。おそらくマタチッチの中にもドヴォルザークの感覚に(別の意味でだが)近いものがあったのかもしれない。彼の作曲家への共感の度合いが並大抵ではないからだ。

・ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮NHK交響楽団(1975.12.10Live)

NHKホールでの実況録音。稀代の名作の名演奏に、そのときその場にいた聴衆は酔い痴れたことだろう。徐々にドライヴがかかるオーケストラの高い燃焼度合。火傷しそうなくらいだ。終演後の拍手喝采が何とも温かい。音楽は時間の経過とともに一層熱く、厚みを増す。

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