原田幸一郎さんが「ウィーン的演奏とは」という興味深いエッセーを書いておられる。
我々がよく口にする「ウィーン的」とはどんなものかときかれても具体的に答えられなくて困ってしまいますが・・・。何といったらいいか、楽天的で適度に怠惰で、そうそうテレビでおなじみのニューイヤー・コンサートでやる、あのウィンナー・ワルツです。僕個人の好みからいうとああいう音楽はあまり好きではありませんが、ウィーンの人たちのとってはなくてはならない音楽なのかも知れません。
~前田昭雄「カラー版作曲家の生涯 シューベルト」(新潮文庫)P180
「楽天的で適度に怠惰で」という言葉が言い得て妙である。
音楽は何より明るい方が良い。そして、同時に形式ばらず、堅牢過ぎず、文字通り自由な方がより面白い。
マタチッチ指揮N響による1973年の「青少年のためのプロムナードコンサート」からの抜粋。さすがのマタチッチも対象が青少年ということになると、「適度に怠惰に」とはいかないようで、シューベルトなど至って真面目かつ緊張感に溢れる演奏である(自然体かつ楽天的ではある)。ちなみに、先の原田さんのエッセーの括りはこうだ。
前に僕が東京クワルテットのメンバーだった頃、オーストリーのリンツに行くたびに聴きにきてくれた音楽好きの医者がいましたが、彼はコンサートの後いつも食事に連れていってくれてコンサートの批評をしてくれました。ある時、シューベルトの「ロザムンデ」をウィーン風にやってやろうと思い、少しおおげさにリズムをくずして演奏したところ、ああいう「くずし」をするのはアメリカ人と日本人だけだと皮肉をいわれました。本場を意識すると間違いやすいという、良い教訓だと思います。
~同上書P181
物事は自然体でなければならぬという良い話だ。マタチッチのシューベルトは、何より第2楽章アンダンテ・コン・モートの空虚な響きが実に現実的に鳴り渡るところがその実体であり、シューベルトの音楽の真髄を突いていると思う。演奏に当たり、ここでのNHK交響楽団の貢献度は高い。
NHKホールでの実況録音。ビゼーの「カルメン」組曲の、力のこもった演奏が素晴らしい。わけても「間奏曲」の優しさよ、そして、「アラゴネーズ」の活気よ。すべてが理想的なテンポと流れ。「アルルの女」の「ファランドール」も何て躍動的で魅力的なのだろう(終結に向けての加速が圧倒的)。
ちなみに、アンコールで奏されたヤコヴ・ゴトヴァッツはクロアチアの、マタチッチと同年代の作曲家だが、さすがに同郷とあり、マタチッチの管弦楽を思いっ切り鳴らす思い入れたっぷりの演奏に身も心も痺れる。最後の和音が鳴り終わるや否や上がる聴衆の歓呼の絶叫が当日の演奏の凄さを物語る。