アンドレ・クリュイタンスによるフォーレのレクイエムの旧録音を聴いた。
(時代がかった?)燻ぶった暗い音によって、死者の魂を弔うに相応しい楽音が創出される。第1曲「入祭唱とキリエ」から激する合唱の力量に僕は思わず唸った。
名盤と称される、新しい録音よりも僕はシンパシーを覚えた。音が、音楽の進行と共にますます沈潜してゆく様に、何とも不思議な安息があるからだ。第2曲「奉献唱」の、ルイ・ノゲラによるバリトン独唱の慈しみ、そして、それに応える4部合唱の哀感、何よりここでオルガンを担うのがモーリス・デュリュフレであることが極めつけ。儚く美しい第3曲「聖なるかな」に痺れ、マルタ・アンジェリシが歌う第4曲「ああ、イエズスよ」の永遠の希望に癒される。ゆっくりと、丹精込めて奏される鎮魂曲の素晴らしさ。そして、第5曲「神の小羊」でのオーケストラの慟哭!あるいは第6曲「われを許し給え」から終曲「楽園にて」の筆舌に尽くしがたい祈りの歌。
そして、「レクイエム」以上に光彩を放つのが、マルグリット・ロンを独奏に据えた「バラード」。センス満点の粋なピアノの音の色彩と、どちらかというと謙虚に振舞うパリ音楽院管弦楽団の柔らかくも強力な音に僕の心は解き放たれた。
ちなみに、このボックスセットではレクイエムの前哨のように(?)収録されたシャルパンティエの「主の御降誕のカンティクム」から「夜」は、実に内省的で深遠な内容だが、決して抹香臭く再生しないのがクリュイタンスの常套だろうか。やはり遅めのテンポで思念込められ、音楽は大河のごとく滔々と流れる。