
レナード・バーンスタイン102回目の生誕日。
最晩年の巨匠の演奏に僕は夢中になった。一般的には評価の低いものも多い中、あの、スローテンポの、粘る解釈に僕はいつも心を奪われた。死の直前、日本を訪れ、札幌での音楽祭でのインタビューで「私は音楽と人を愛する」と語っていた言葉こそが彼の人生そのものだった。
亡くなって30余年を経てあらためて思う。19世紀浪漫の色香漂う、古の巨匠風解釈は、(少なくとも僕の中では)今でも説得力を持つ。僕自身が年齢を重ねたせいもあろう、受け取る器が大きくなったのかもしれぬ、晩年に残されたどの演奏も相変わらず僕の心を打つ。僕はレナード・バーンスタインがやっぱり好きだ。
1980年度のレコード・アカデミー大賞受賞のベートーヴェン全集から「英雄」交響曲。
・ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1978.2Live)
70年代のバーンスタインの指揮は、僕が愛着を感じる晩年の粘着性はまだ薄い。テンポも正統で、ある意味遊びの少ない、面白みの少ない演奏だともいえまいか。最後のコンサートの交響曲第7番を(演奏の是非はこの際無視して)髣髴とさせる、他の指揮者では味わえないベートーヴェンを聴きたかったといえば、それはないものねだり。
ちなみに、バーンスタインは、ベートーヴェンの偉大さは「子どものように信じる純粋な単純さ」、「人を魅了する無邪気さ」、「可愛らしさ」だと洞察したそうだ。そう、彼は文字通り、楽聖の中にある「無心、無我、無為」という姿勢を彼は見透かしていた。
70年代の演奏にはまだまだ自然体ではない恣意が残っている。
彼が真の意味でベートーヴェンの本質に近づけたのは80年代も中頃を過ぎてからだろうか。否、ひょっとすると本質を獲得するのに時間が足りなかったかもしれない。もうあと何年か、少なくとも80歳くらいまで生きることができたら、彼はもっと素晴らしいベートーヴェン全集を残してくれたかも。