フィッシャー=ディースカウ ポリーニ シューベルト 歌曲集「冬の旅」(1978.8.23Live)

シューベルトとの出会い。私の場合—そう、はっきり覚えている。10歳の時つまり1935年、ピアノで奏いて自分で見つけた。奏いて、歌って。後ではだんだん、歌うほうになったけれども。
シューベルトの何? やっぱり「冬の旅」! 10歳の頃から—いや、10歳だからこそ「冬の旅」には強烈に惹かれた。明るいシューベルトは、あとから見つけた。すぐ思い出すのは「春の夢」と「辻音楽師」。こういうシューベルトは、先生にもらったり、親にあてがわれたり、などというものではなかった。10歳で自分で見つけて憧れた「ライアーマン」に、結局、自分の一生は導かれてきたのかも知れない。

(ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ)
前田昭雄「カラー版作曲家の生涯 シューベルト」(新潮文庫)P80

一人の少年を感化したシューベルトの音楽は、それから43年後、文字通り「辻音楽師」に導かれ、一世一代の歌となった。

歴史的一夜の記録。
1978年のザルツブルク音楽祭。
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウとマウリツィオ・ポリーニによるシューベルトの歌曲集「冬の旅」。真夏のザルツブルクで奏でられた、凍てつくような大地を彷徨う旅人の苦悩の歌。思念を込め歌うディースカウと小気味良くルバートを効かせ静かに大きくうねるポリーニのピアノが一つになる終曲「辻音楽師(ライアーマン)」の悲哀。第1曲「おやすみ」に聞こえるわずかな希望の念は、第24曲に至ってついにもろくも崩れ去る。ディースカウの声はとても優しく、一方、ポリーニの伴奏はとても厳しい。

・シューベルト:ヴィルヘルム・ミュラーの詩による連作歌曲集「冬の旅」D911
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)(1978.8.23Live)

祝祭小劇場での実況録音。観客の集中する姿が目に浮かぶような緊張と静寂の中で歌われた奇蹟のリサイタル。全編にわたり理知と感情のバランスが見事で美しい。ライヴならではの冷たい熱気とシューベルトへのほとばしる愛が感じられる名演奏。

私は音楽家または一般に芸術家に対するある見方には反対です。つまり、知性を一方に、感情・自発性ないし表現の豊かさを他方に据えるやり方です。これらの性質は互いに対立してあるのではなく、まったく共にあってひとつの全体を成すのです。
(マウリツィオ・ポリーニ)

納得。

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