ローレンツ フラグスタート クナッパーツブッシュ指揮チューリヒ・トーンハレ管 ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」第3幕(1947.6.5Live)

結果として、多くのドイツ人が「無罪」となり、社会復帰を果たす。クナッパーツブッシュについてミュンヘンの非ナチ化審査機関の公訴人は10月22日、法律に抵触せずとの結論に達した。
彼が個人的には、ナチズムに対して、まったく妥協のない、気骨のあるしかたで敵対していたこと、個人的な譲歩をいっさいしなかったことは、一般に知られているとおりであり、公文書記録によって証明された。

奥波一秀著「クナッパーツブッシュ―音楽と政治」(みすず書房)P177-178

1947年1月22日、バンベルク交響楽団を指揮してのコンサートからクナッパーツブッシュの戦後の活動が再開された。その後、少しずつ各地のコンサートホール、オペラ座への復活が果たされていくのだが、どの地においてもクナッパーツブッシュの熱烈な崇拝者たちの熱狂ぶりは大変なものだったといわれる。

1947年6月5日のチューリヒ市立劇場も同じく観客の怒涛のような喝采と熱狂的な歓声に包まれたことだろうと想像する。「チューリヒ6月音楽祭」の記録である楽劇「トリスタンとイゾルデ」(ハンス・ツィマーマン演出)。何とトリスタンをマックス・ローレンツ、そしてイゾルデをキルステン・フラグスタートが演じているのだ。

・ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」第3幕
マックス・ローレンツ(トリスタン、テノール)
リュボミル・ヴィシェゴノフ(マルケ王、バス)
キルステン・フラグスタート(イゾルデ、ソプラノ)
アンドレアス・ベーム(クルヴェナール、バリトン)
アレクサンダー・コラツィオ(メーロト、テノール)
エルザ・カヴェルティ(ブランゲーネ、メゾソプラノ)
ロルフ・ザンダー(テノール、牧童)
ヴィルヘルム・フェルデン(バリトン、舵取り)
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮チューリヒ・トーンハレ管弦楽団(1947.6.5Live)

空前絶後の「トリスタンとイゾルデ」第3幕。音質は確かに悪い。しかし、想像力で補うことさえできれば、クナッパーツブッシュの呼吸深い指揮ぶりと音楽への共感、そして彼のワーグナー愛に共鳴するかのようにイゾルデ演じるフラグスタートが実に濃密な歌を、またトリスタンに扮するローレンツが実に官能的な歌を朗々と披露していることかがよくわかるだろう。
例えば、最終シーンである「愛の死」は、死に対峙するイゾルデの究極的なエロスがオーケストラの底なしのうねりと連動してゆっくりと時間をかけて徐々に盛り上がっていく。なるほど、愛と死とは一体なのだ。そして、何と言っても楔を打つかの如くのティンパニの強烈な打撃が、イゾルデの強い意思を表すかのようで心からの感動を覚えるのだ。

人気ブログランキング


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む