シフラ ワーグナー/リスト 歌劇「タンホイザー」序曲S442(1959.7.22録音)

フランツ・リストのリヒャルト・ワーグナー宛の手紙。

技術的な困難を乗り越えられる演奏者はごくわずかだと思う。
(1849年2月26日付)

実際、編曲者自身も額に汗かきながら休み休み奏したという「タンホイザー」序曲の華麗な技巧と、原曲をできる限りそのままアレンジしようとしたリストの力量に舌を巻かざるを得ない(その分ピアニストにとってこの曲は最大の難曲の一つになっている)。

そしてまた、リストの弟子であったハンス・フォン・ビューローは母親に宛て次のように書いている。

楽譜上ではそこまで恐れ慄かせるものには見えないのですが、「タンホイザー」序曲の演奏は非常に負担なので、リストは終わり近くで一瞬止まらざるを得ませんでした。演奏は非常に疲労させるため、リストは稀にしか弾きません。
(1849年6月21日付、ビューローの母親宛手紙)

オクターヴ超えの音程が頻出する音楽の、人間業とは思えぬ奇蹟をジョルジュ・シフラがいとも容易く表現する様に興奮する。しかしこれはほとんどリストが自身のヴィルトゥオジティを世間に見せびらかすためのスコアだという見方もできないではない。
ワーグナー自身の、もっと的を射た(?)、端正でふくよか、まさに「タンホイザー」序曲たるピアノ演奏を聴くと、心からの感動を喚起させられる。何と素晴らしい音楽なのだろうと。

・ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲S442(フランツ・リスト編曲)(1849)
ジョルジュ・シフラ(ピアノ)(1959.7.22録音)

華々しさを求めるならリストのパラフレーズを聴くが良い。
余分なものを放下し、音楽そのものを堪能したいなら圧倒的に作曲者自身による編曲だ。
いかに脱力するか、いかに自然体であるか。
すべてはそこに帰結する。
(とにもかくにも両者の編曲を比較試聴することをおすすめする)

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