マキシム・パスカル指揮読売日本交響楽団第245回土曜マチネーシリーズ

フランス音楽というのは、絢爛豪華でありながらつい浅薄な、少なくとも僕の心には響きにくいものだとてっきり思い込んでいたけれど、今日のような演奏を聴かされるとその思い込み自体を改めなければならない。そしてまた録音の限界を僕は思い知った。

各奏者の抜群の力量はもちろんのこと、オーケストラの精緻なアンサンブルに舌を巻いた。それは当然指揮者の統率力に左右される。パスカルの微妙な手の動きから生み出される音楽の完璧な色彩感、あるいは静寂から大轟音に至る音の移ろいのコントロールの巧さ。すべてに感激した。

相変わらず誇大妄想的な爆発力を示すベルリオーズの音楽は、何と豊饒な音の洪水を示していたことだろう。何より「ラコッツィ行進曲」での金管群の煌びやかな咆哮と管弦楽の立体的な響きに、ベルリオーズは実演で聴かない限り見えないことを痛感した。読響の各奏者の技術は、この後のラヴェルの「ツィガーヌ」のときとあわせ、類稀なるものだということを教えてくれた。何という共感、そして何という共鳴!
続く、ショーソンの傑作「詩曲」のあまりの妖艶さ。久しぶりに耳にした前橋汀子の繊細ながら芯の太い、艶のあるヴァイオリンに触れられた喜びに浸る間もなく、管弦楽版による音楽の陶酔に引き摺られ、客席で僕は思わず恍惚となった。エキゾチックな音、オリエンタルな匂い、世紀末のフランス人たちが憧れた東洋の響きが、前橋にしか醸すことのできない熱のこもった音で(大袈裟だけれど)心に直接響いた。何という巧さ!
さらにラヴェルの「ツィガーヌ」は、ここぞとばかりに詩情と官能を前面に押し出す名演奏(特に前半独奏部に僕は痺れた)。

読売日本交響楽団第245回土曜マチネーシリーズ
東京芸術劇場コンサートホール
2022年3月12日(土)14時開演
前橋汀子(ヴァイオリン)
小森谷巧(コンサートマスター)
マキシム・パスカル指揮読売日本交響楽団
・ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」から「鬼火のメヌエット」「妖精の踊り」「ラコッツィ行進曲」
・ショーソン:詩曲作品25
・ラヴェル:ツィガーヌ
~アンコール
・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番からラルゴ
休憩
・ルベル:バレエ音楽「四大元素」
・ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」組曲第2番

オーケストラ全開の後半が聴きもの。
天地開闢の物語たるルベルのバレエ音楽「四大元素」は、冒頭の混沌から終曲の大調和に至る音楽の、やはり録音では聴きとることのできなかった地(バス)、水(フルート)、火(弦)、大気(ピッコロ)の循環する有り様に僕は目を瞠った。ここでも読響の木管群の素晴らしさに拝跪。そして、この18世紀の音楽がラヴェルの壮大な音楽につながりゆくプロセスに僕は思わず感動した。

そえにしても名作「ダフニスとクロエ」第2組曲が何と描写的で、何と音楽的であるのか、妙なる粋な音楽に唸った(よくもこんな作品を拵えられたものだとあらためてラヴェルの天才に瞠目する)。ラヴェルの他を冠絶する色彩感、組曲として見事なアレンジ能力、夜明けからパントマイム、全員の踊りに至るまで弛緩なく怒涛の音の嵐、洪水で聴衆を圧倒するマキシム・パスカルの激しく身振りする(乱舞する?)動きに金縛り。

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