The Beatles Yellow Submarine Songtrack (1999)

映画「イエロー・サブマリン」に関して、ビートルズ自身、最初からアイディアに反対だったらしい。しかし、マネージャーのブライアン・エプスタインの結んだ、映画のためにそれまでのビートルズ・ソングから十数曲、そして新曲を4曲入れるという契約上、後ろ向きながらこのプロジェクトは進行していったという。

「オーケー。その辺の出来の悪い曲で間に合わせるさ。でも、そのアニメーションのために無理して作るなんてことは絶対にしないよ。やりたいと思った時しかやらないし、これでいいと思った曲しか連中には渡さないさ」
その結果は—次のアルバムのレコーディング中、セッションのあとに、彼等はちょっとしたナンセンスなものを試しにやってみて—それがけっこううまくいったので、「これでいいや、例の映画には充分さ。連中には、これぐらいがちょうどいいのさ」といい出したのだ。そのため、新曲に関する限り、この映画はビートルズの音楽の中でも最低の出来の歌をかき集めたものになった。

ジョージ・マーティン/吉成伸幸・一色真由美訳「ザ・ビートルズ・サウンドを創った男―耳こそはすべて―」(河出書房新社)P332

ジョージ・マーティンの証言である。いい加減に取り組んでもさすがにビートルズの作品は力がある。半世紀余りを経て聴く音楽の瑞々しさよ。そして、「出来の悪い」とされる曲たちが今や燦然と輝くのである。

『イエロー・サブマリン』を、もっと正統派寄りのアニメにしてほしかったんだ。単に、ある男が海に出て潜水艦の国に行くというストーリーにするべきだった。海に潜って、いろんなものを見て、いろんな人に出会うというのもいい—すごくおもしろそうだよ。
僕はディズニーの映画が大好きだから、これは史上最高のディズニー映画になると思っていた—そして音楽は僕らのを使うんだから。この組み合わせが実現したら、すばらしかっただろうな。だけど彼らはそれを望んでいなかった。改めて見ると、今はこの映画が好きだよ。ほんとにかなりおもしろい。制作者たちは僕らの関心が向いている方向に行くべきだと感じていた。僕らが取りかかっていたのが『サージェント・ペパー』だったんだ—でも、当時の僕には『バンビ』の方がよかった。

(ポール・マッカートニー)
The Beatles アンソロジー(リットーミュージック)P292

今となっては本人たちの意向よりも制作者たちの考えの方が正しかったのだと考えて良いだろう。もちろんポールの思惑通り正統派アニメになっていたらそれはそれで普遍的な名作になったことだろうが。

僕は、あの映画が好きだ。名作だと思う。どうして自分の役の吹き替えをしないことになったのかよくわからないけれど、おそらく俳優がやった方がよかったんだろう。アニメっぽくする必要があったからね。どっちみち僕らの声もかなりアニメっぽかったけれど、俳優のような誇張した喋り方が、あの映画には合っている。あれは、すべての世代が見れる映画だね—赤ん坊とか3~4歳の子どもにも受けるよ。
(ジョージ・ハリスン)
~同上書292

僕は『イエロー・サブマリン』が大好きだった。アニメーションがすばらしくて、ほんとに革新的だと思った。シー・オブ・ホールズ、ブルー・ミーニーの動き方—今になってもすばらしい。関係者の一員であったことをうれしく思うよ。
(リンゴ・スター)
~同上書P292

1972年のインタヴューで、面々はそう答えている。皆、映画『イエロー・サブマリン』が好きだったのだ。

・The Beatles Yellow Submarine Songtrack (1999)

1999年にリリースされたリマスター音源を使用しての「ソングトラック」は、文字通り「イエロー・サブマリン」の真のサウンドトラックといえる代物だ。”Yellow Submarine”にはじまり、”Hey Bulldog”、”Eleanor Rigby”、・・・と続くアルバムは、メンバー曰く「レコーディングの出来の悪い」4曲を収録した完璧な作品だ。

ちなみに、亡くなる年、1980年に「イエロー・サブマリン」についてジョンは次のように回想している。

あれは、ユナイテッド・アーティスツとの契約を果たすために制作した3本目の映画だった。契約はブライアンが決めたことだったから、僕らにはどうしようもなかった。でも僕はこの映画が好きだ。アートワークがいい。スタッフからもう1曲ほしいと言われたので、僕はパッと「ヘイ・ブルドッグ」を書いた。この曲は、サウンド的にはよく仕上がった。歌詞には特に意味はない。
(ジョン・レノン)
~同上書P292

ほとんど仕方ないやっつけ仕事ともいえる中でも、さすがにビートルズの才能は輝いている。そう、まさに現代にこそ相応しい愛と調和を歌った楽曲が並ぶのだ。

そんな4人も、映画を実際に観たときは、予想以上のおもしろさと高い芸術性に驚くことになった。単にザ・ビートルズを主人公にしているだけでなく、物語はザ・ビートルズの音楽がテーマになっている。理想郷だったペパーランドがブルー・ミーニー族(「卑劣な」「意地悪な」の意味のmeanに由来する名前)に侵略され、平和な暮らしと音楽や色彩も失われてしまう。逃げのびた住人はザ・ビートルズに助けを求め、一行は黄色い潜水艦に乗り込んでペパーランドへと向かう。そして平和をとり戻すためにザ・ビートルズが選んだ手段は音楽だった。まさに「イエロー・サブマリン」「オール・トゥゲザー・ナウ」「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ(愛こそはすべて)」といったビートルズ・ナンバーにヒントを得た展開だ。
(文責/淡嶋美和子)
TOCP-65300ライナーノーツ

映画はもちろん素晴らしい。
しかし、それ以上に物語のヒントとなる軸を形成するビートルズ・ソングの美しさ。リマスターされ、蘇る音に感動する。

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