ローレンガー ヴッソウ セル指揮ウィーン・フィル ベートーヴェン 劇音楽「エグモント」(1969.12録音)ほか

エグモント伯爵は、敵の息子にすら「楽しんで生きよ」と語りかけたと言われる。
圧政に苦しむ庶民に立ち上がり、自由を取り戻すことを煽動せんと彼は立ち上がる。しかし、次代が早過ぎたのか、結局彼は処刑されるに至った。当時、世界は宗教の宗派の激しい対立(カトリック対プロテスタント)の中にあった。そんな厳しい状況の中にあって、エグモントはどんなときも前向きであり、明朗だった。彼は一生が仮のものだということを知っていたのだ。そして、魂は不滅だということがわかっていたのだ。

そうだ、あれは確かに、私の心が愛した
二つのものが一つになった姿だ。
神々しい自由が、
私の恋人の姿をとって現われたのだ。
美しい乙女が、その心の友なる女神の
衣装を着て現われたのだ。
彼らが合体して現われたのは厳粛な瞬間だった。

(石井宏訳)
UCCD-7036ライナーノーツ

相対の世界において真理を体得することは決して容易ではないが、エグモント伯は一つになったときの空(くう)という状態をすでに体感済みだったのか。そして、ゲーテの原作に感応したベートーヴェンもおそらくその空(くう)というスペースを体得していたのだろうと想像できる。

悲喜交々、人・事・物すべてを生かすことができるのだと悟性は見出す。
佛はそれを好生の德と表現した。ハイリゲンシュタットの遺書の中で弟に宛て、「これからの時代は金ではない、德だ、德を積め」と書いたベートーヴェンの天才ゲーテとの共作であり、傑作。

・ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」作品84(1969.12録音)
ピラール・ローレンガー(ソプラノ)
クラウス=ユルゲン・ヴッソウ(語り)
ジョージ・セル指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
・シューベルト:劇音楽「ロザムンデ」D797(抜粋)(1957.11録音)
—序曲(劇音楽《魔法の竪琴》D644)
—第3幕間奏曲
—バレエ音楽第2番
ピエール・モントゥー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

豪壮なる響きの序曲からセルの指揮は端正でありながら何と激しい情感を示すのだろう。
白眉は第8曲メロドラマ「甘き眠りよ! お前は清き幸福のようにやって来る」だと思うが、それにしてもナレーターに起用されたヴッソウの、まるでアドルフ・ヒトラーの煽動演説を髣髴とさせるエグモントの激烈な語りに腰を抜かす。

一方、モントゥーの指揮による、抜粋ながらシューベルトの劇音楽「ロザムンデ」がまた真摯な響きを醸し、美しい。中でも、有名な第3幕間奏曲は、ゆったりとした余裕のあるテンポで進められ、中間部の軽快なパートも思い入れたっぷりの表情で、心を揺さぶられる。

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