
冷徹だけれど知的で繊細だというのが僕のサロネンの印象。
即物的という言い方は正確ではなく、また、決して小難しいわけでもない。理に適っていて、バランスに富むのが彼の音楽の特長であり、それゆえ現代作品とはいえ、(個人的には)耳に心地良い。
ドーン・アップショウを独唱に迎えた「サッフォーによる5つのイメージ」が素晴らしい。詩と音楽の統合が見事に成立していて、やはり情感こもったソプラノの威力に舌を巻く。
「ジロ」での、大地に漲る圧倒的な土俗性は、ロシアの憂愁に呼応するようだ。まるでムソルグスキーの歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」にある強烈な磁力のように聴く者を惹きつける。
また、「マニア」での前衛色鮮やかな舞踊(?)がカルットゥネンによるチェロ独奏とアンサンブルの対話によって表現される様に言葉を失う。あるいは、ストラヴィンスキーを髣髴とさせる「ガンビット」の冷たい官能。なるほどサロネンは、過去の偉大なる音楽家のイディオムを直接的に持ち込みつつも自由に独自の展開を試み、しかも現代色に染まらない、踊れる(?)現代音楽を世に送らんと音楽を創造するのだろう。
ちなみに、ジャケットの、雨に濡れたビルの回廊(?)を思念して歩くサロネンの姿は、自然と人間との調和を示し、それこそがサロネンの創造の志なのだと暗示しているようで興味深い。