Herbie Hancock “Maiden Voyage” (1965)

逆境をいかに乗り切るか。
どんな状況だろうと、それを楽しむことだ。未来は明るい。

このころには、マイルス、ロン、トニー、ウェイン、私の5人がクインテットで演奏し始めてから1年以上が経過しており、バンドとしての結束力は高まり、お互いに気持ちよく共演できるようになっていた。私たちは演奏するための方程式を見つけ出していたが、とうぜんながら、方程式に沿った演奏は私たちがやりたいこととは正反対のスタイルだった。私たちにはリスクを冒して挑戦する要素が必要だった。私も演奏が少し安易なものになってきていることに気づいていたが、シカゴへの機内で会話の口火を切ったのはトニーだった。
川嶋文丸訳「ハービー・ハンコック自伝 新しいジャズの可能性を追う旅」(DU BOOKS)P110

伝説のマイルス・クインテットにおいて挑戦的だったのは何もリーダーのマイルスだけではなかった。メンバーそれぞれが既存の殻を常に破ることを意識していたことがこの証言からもわかる。

同時期、ハービー・ハンコックは初リーダー作の録音に取り組んでいた。

私が作ったあらゆる曲のなかで最高の作品、私がいちばん気に入っている曲は、1965年に生まれた。その曲はもしかしたら生まれなかったかもしれない。飛行機のなかでアイデアを書き留めたナプキンを失くしてしまったのだ。
~同上書P106

ここでいう最高の作品とは、「処女航海」のことである。

レコーディングした全曲をジーンと彼女の友人に聴かせた。聴き終わると、ジーンの友人が「なんだか水を連想するわ」と言った。私は“たしかにそうだ”と思った。そして彼女は言った。「最初の曲は航海のような感じだわ。処女航海ね」。私は叫び声をあげ、手を叩いた。それだ! その言葉が彼女の口から出たとたん、それが曲名だと直感した。
~同上書P109

何気ない対話の中から生まれる奇蹟といえば言い過ぎか。
それにしても創作力旺盛な、しかも常に革新を目指す稀代のジャズメンたちの天才に舌を巻く。

・Herbie Hancock:Maiden Voyage (1965)

Personnel
Herbie Hancock (piano)
Freddie Hubbard (trumpet)
George Coleman (tenor saxophone)
Ron Carter (bass)
Tony Williams (drums)

不可能を可能にするマイルス・バンドの精鋭たちがハンコックを中心に果敢なインタープレイを織り成すさまが実に美しい。57年も前のプレイとは思えぬほど楽曲は推進力に満ち、いずれもが堂々たる威風で世界を魅了する。フレディの精悍かつエロティックな(?)トランペットがうなる”The Eye of the Hurricane”のスピードに僕は心が躍る。その意味では、冒頭、ジョージのテナーが麗しいラスト・ナンバー”Dolphin Dance”も普遍的だ。途中、フレディの強烈なトランペットと絡むシーンが何と魅力的なのだろう。

マイルスは音楽に関して多くの素晴らしい教えを授けてくれた。だが彼から学んだのは、より上手く演奏するためだった。私はあまり過去を振り返らない。かつての私は音楽を演奏することが人生でいちばん重要だと思っていたからだ。
~同上書P391

年齢を重ねてからの振り返りはとても大切だと思う。
ハービー・ハンコックのすべてへの感謝に溢れる言葉に感動する。もちろん彼が生み出したすべての音楽作品にもだ。

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