ケンプ ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第9番(1964.11録音)ほか

ベートーヴェンのソナタの持つそれぞれの技術的な課題、技術的なむずかしさをもはや意識しないようになるまで、あなた方の技術的基礎を発展させるようにして下さい。
何故ならベートーヴェンは「体験」されねばならぬからです。彼をあなたが体験することができたなら、あなたの聴衆も彼を体験することができましょう。

(ヴィルヘルム・ケンプ)

ヴィルヘルム・ケンプのベートーヴェンを聴いた。
録音で聴く限りスケールは決して大きくない。しかし、その内へ内へと収斂する、可憐な響きはいかにもベートーヴェンの女性的な、優雅な側面を表出していて実に面白い。特に初期ソナタたちよ。

ベートーヴェン:
・ピアノ・ソナタ第8番ハ短調作品13「悲愴」(1965.1.11&12録音)
・ピアノ・ソナタ第9番ホ長調先品14-1(1964.11.12&13録音)
・ピアノ・ソナタ第10番ト長調作品14-2(1964.11.12&13録音)
・ピアノ・ソナタ第11番変ロ長調作品22(1965.1.14&15録音)
ヴィルヘルム・ケンプ(ピアノ)

ハノーファーはベートーヴェンザールでの録音。
ケンプのベートーヴェンについての見識は奥深い。無為に音楽が湧き立つように演奏せよと彼は言う。

少なくとも録音においてケンプの演奏は素朴で自然体だ。
ということは、彼は自身の言葉を体現しているということだ。「悲愴」ソナタは美しい。しかし、それ以上に僕の心をとらえるのは、作品14のソナタホ長調であり、ソナタト長調だ。ここからは、ウィーンで、少なくともピアニストとして頭角を現していた青年ベートーヴェンの気概が聴こえてくる。それにケンプの演奏は何とも若々しい。

例えば、ホ長調作品14-1の第2楽章アレグレットでの囁き、語りかけるような、しかし輪郭のはっきりした音楽に僕は愛を思う。ケンプは心底ベートーヴェンを愛しているのだと思う。続く終楽章ロンド,アレグロ・コモドなども何という喜びに溢れているのだろう。いまだ耳疾を発症する前のベートーヴェンの未来への希望。素晴らしいと思う。

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