Chet Baker in Tokyo (1987.6.14Live)

亡くなる1年ほど前の来日公演の記録。
彼がわずか1年でこの世を去るという感慨と寂寥を横に置いて聴いてみると、ここには確かに生命力が宿り、何より彼が自ら楽しんで聴衆に音楽のサービスをしようとする姿勢が垣間見られ興味深い。

(1987年の)大晦日、アムステルダムのデ・ケラッグでのステージの前に、チェットはオランダのテレビ局からブルース・ウェーバーの映画と類似したようなニュース番組用のインタビューを受けた。番組の中でチェットの外見は弱々しく見えたが、機嫌は良かった。「1年終えたね。何とか生きのびたよ。そうだよ、今年はダイアンがほとんど1年中一緒にいてくれたんだ。男にとって、これも最高の天からの贈り物だね。そして、88年はもっと・・・いや、87年よりいい年になる必要はないね。同じくらい良ければね。それで充分だな。」この様子はオランダのテレビで何度も“最後のインタビュー”として放映された。
ユールン・ドフォルク著/城田修訳「改訂版 チェット・ベイカー その生涯と音楽」(現代図書)P196

今となってはこのときのチェットの言葉は実に意味深なものに聴こえなくはない。
本人の意識を超えたところで得てして人間は死期を悟っているのだといわれることもあるが、58歳にして枯淡の境地に足を踏み入れたチェットの言葉は重い。

そして、人見記念講堂でのライヴがどれほど生気に溢れていたのか、呼吸すらもみ消すかのように静寂を保ち、緊張の面持ちで演奏を聴く(であろう)聴衆は何を思ったのか。

・Chet Baker in Tokyo (1987.6.14Live)

Personnel
Hein Van de Geyn (bass)
John Engels (drums)
Harold Danko (piano)
Chet Baker (trumpet, vocals)

疾走感豊かな”Arborway”など、とても耄碌した(後のない)ジャズメンの演奏とは思えない。むしろ彼はこれからまた希望に溢れる音楽を世に送り出そうという思いを認めていたのではないのか、そんなことすら思わせるカルテットの妙。あるいは、マイルス畢生の名作”Seven Steps to Heaven”の、本家本元以上に清廉かつ澄んだトランペットがうねる音楽に冒頭から思わず心が動く。

ラスト・ナンバー” Broken Wing”の愁いにまた涙がこぼれる。何というセンス!!

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