縁生縁滅。
すべては縁あって生じ、時の経過とともに自然消滅する。
トロイア戦争の原因を探れば、そこにはトロイア王子パリスが、絶世の美女だったといわれるスパルタの王女ヘレネを連れ去ったからだといわれる。個の我欲が生み出す悲劇という結末。21世紀の今も、世界を見渡せば時間と空間を超え、因果の法則がれっきと働いている。袖振り合うも他生の縁。
19世紀の浪漫の時代にあって、フランスという国は幾度も政体の変転を体験し、適応できぬものは駆逐され(?)そのたびに民衆には大きなしわ寄せがあった。もちろんそれは現代社会にも多大な影響を与えていることは間違いない。「目には目を」では事は決して鎮まらない。
ジャック・オッフェンバックの冷静なる目と、巧みに風刺する器量に感極まる。
何よりモーツァルトにも優るとも劣らぬ音楽性(ロッシーニはシャンゼリゼのモーツァルトと呼んだ)だが、それにも増して、オペレッタ(喜歌劇)というジャンルを確立し、世間にユーモアを喚起しつつそこに真実を託し、様々な不埒な事件を笑い飛ばした功績は大きい。
1864年初演の喜歌劇「美しきエレーヌ」が素晴らしい。
ここではジェシー・ノーマン扮するエレーヌの、堂々たる体躯から編み出される可憐でありながら筋の通った、ぶれのない歌唱が飛び抜けて美しい(第1幕最初のエレーヌのアリア「神聖な恋」!!)。
第2幕フィナーレの劇的な音楽の運びはイタリア・オペラのパロディらしいが、これぞ喜歌劇の粋とも言うべき愉悦にオッフェンバックの天才を思う。しかし、それ以上に音楽が果敢に開放され、物語の終焉に向かう途中の第3幕愛国の三重唱「ギリシャが戦場になれば」以降フィナーレに向けての、後年のミュージカルに通じる音楽の推進力と凄まじい破壊力! ミシェル・プラッソンの指揮も秀逸。