ステューダー マクネアー ロスト オッター ラング ザイフェルト ターフェル ローテリング アバド指揮ベルリン・フィル マーラー 交響曲第8番(1994.2Live)

ベルリン・フィルでのクラウディオ・アバドの功績。

アバドの時代には、ベルリン市は政治的に、ベルリン・フィルは音楽的に、それぞれが同時に新しい道を探ろうとしていた。アバドに向けられるお別れの拍手は、確かに、利己的なカラヤンに対して、音の美しさを捨てずに、オーケストラに強い協調関係をもたらした指揮者への感謝であった。古典派とロマン派の周辺分野へとレパートリーを拡大したこと、ノーノ、クルターク、リゲティ、リーム、フラーといった現代音楽を紹介したことにも、当然感謝すべきであろう。
ヘルベルト・ハフナー著/市原和子訳「ベルリン・フィル あるオーケストラの自伝」(春秋社)P382

何より左脳的な現代音楽に、官能とも見える右脳的な要素を組み込んだのはアバドではなかったか。

ザルツブルク復活祭音楽祭では、ペーター・シュタイン、クラウス・ミヒャエル・グリューバー、ヘルベルト・ヴェルニケのような演出家との共同作業がおこなわれ、オーケストラに新しい客演指揮者を引き合わせてくれた。さらに特に感謝すべきなのは、ニキシュ、ワルター、クレンペラー、ヤッシャ・ホーレンシュタインによるマーラーの伝統を守り続け、このアンサンブルをマーラー作品では最高の楽団にしたことだ。
~同上書P382

アバドのマーラー演奏は実際特別だ。もちろんベルリン・フィルの機能性、精緻なアンサンブルがもたらす成果であるのだが、それ以上に全体観と細部まで見通せるアバドの解釈が僕たちのマーラー理解を一層深めたことは間違いない事実だ。いまだ未知のものを浸透させる先見はアバドの特権であったのだろうと思う。

逝去から早9年の歳月が流れる。
あの日に聴いたマーラーの交響曲第8番。久しぶりに耳にして思ったこと、それはやはりアバドのマーラーが特別なものであるということ。長尺な音楽がいかに心地良く、どの瞬間もどれほど愛おしく感じさせてくれることか。

・マーラー:交響曲第8番変ホ長調(1906-07)
シェリル・ステューダー(ソプラノI/贖罪の女)
シルヴィア・マクネアー(ソプラノII/罪の女)
アンドレア・ロスト(ソプラノ/栄光の聖母)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(アルトI/サマリアの女)
ローゼマリー・ラング(アルトII/エジプトのマリア)
ペーター・ザイフェルト(テノール/マリア崇拝の博士)
ブリン・ターフェル(バリトン/法悦の教父)
ヤン=ヘンドリク・ローテリング(バス/黙想の恐怖)
ベルリン放送合唱団
プラハ・フィルハーモニー合唱団
テルツ少年合唱団
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1994.2Live)

僕は交響曲第8番の実演に幾度も触れている。この作品は、というかマーラーの作品は実演を聴かない限りその本質は掴めないものだと思うのだが、少なくともアバドが振ったこの交響曲に関しては、下手な実演を凌駕するだけの力とエネルギーが漲っている。
適度な緊張感の中にある自然体の大らかさ、それでいて一切の隙のない機能美ともいえる調和の顕現。
第1部合唱「来よ、創造主なる聖霊よ」から他を冠絶する高尚さ。しかし、クライマックスはもちろん第2部だ。ゲーテの「ファウスト」第2部終幕をテクストとする、晩年ワーグナーの再生論に感化されたグスタフ・マーラーの思想と音楽の真骨頂を、アバドは無心に、丁寧に、しかし十分な思いをもって音化する。何より各々の独唱者の絶唱も見事なもの。

《第四》の校正譜は拝受いたしました。《第八》の総譜はまだです。4月には私はパリで指揮をしまして、5月にはウィーンにおります。そのときに万事について詳しく話し合いましょう。
カセッラの件は私にはきわめて不愉快です。二度すでに彼をプログラムから外しました。今や彼を最終的に次シーズンに延期することにいたします—もう一シーズン残念ながらここで過ごさなければならないのです。ここからまだ抜け出すことができませんでした。しかし今回がたしかに最後です。
なにとぞ、親愛なる友よ、私の交響曲は修正を施したもののみを出版するよう細心の注意を払ってください。《第四》については修正は見事に守られております。

(1911年2月21日消印、ウニヴェルザール・エディション、エーミール・ヘルツカ宛)
ヘルタ・ブラウコップフ編/須永恒雄訳「マーラー書簡集」(法政大学出版局)P425

ニューヨークからの最後の手紙の中の一つにはそうある。実に人間的なマーラーの心の声よ。いかにマーラーが自身の作品の出版に慎重だったか。
マーラーはこの消印の日に最後の指揮台に立ち、その後、絶望的な容態の中、ニューヨークからパリへ移り、パリで倒れ、ウィーンに運ばれ、この年5月18日に息を引き取った。

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