
オットー・クレンペラー最晩年の記録。
1968年のウィーン芸術週間からのベートーヴェンはハ短調交響曲とシューベルトは「未完成」交響曲という、(アナログ・レコード世代には)昔懐かしいカップリングの1枚。
クレメンス・ヘルスベルクの証言が熱い。
じっさいのところ、クレンペラーはウィーン・フィルハーモニーの質をいつも高く評価していた。たとえば、1958年、ブラームスの《ドイツ・レクイエム》のリハーサルが終わった後、こんな発言をしている。「世界に演奏家は大勢いるが、音楽家がいるのはウィーンだけだ」。ウィーン・フィルハーモニーへのこうした評価は、このディスク、1968年6月16日のライヴ録音にも窺える。つまり、シューベルトの《未完成》の終わりで、この老指揮者の口から「シェーン(素晴らしい)!」という言葉が、はっきりと発せられているのである。ちなみに、この演奏が、オットー・クレンペラー/ウィーン・フィルハーモニーの最後の共演であった。
(鳴海史生訳)
~POCG-2626ライナーノーツ
生を得ていた時期のかけがえのない記録に接するとき、不思議な感覚に陥るのは僕だけなのかどうなのか、あの当時の(もちろん音楽とは一切関係のない)微かな記憶とオーバーラップしながら畢生の名演奏を追体験(?)する喜び。
確信的で雄渾な響きと流れるフレーズの自然さ。強弱のバランスは絶妙で、音楽が生きている。おそらく本人的にも一世一代の快演だったのだろうと思われる、クレンペラーが確かに唸ったシューベルトが真に美しく感動的。
楽友協会大ホールでのライヴ録音。
渾身のベートーヴェンは、クレンペラーの他のどの録音よりも強固な意志の反映が見られよう(そしてまた漸強、漸弱の妙)。第1楽章アレグロ・コン・ブリオから音楽は壮絶な様相を示す。特に、第1主題の最後のアタックの強奏、爆発力に老指揮者の想像以上の思いが込められているようで素晴らしい。続く第2楽章アンダンテ・コン・モトの悲しげな安寧に癒され、第3楽章アレグロの堂々たる足どりに心が動く。そして、すべてが解放され、勝利に向かう終楽章アレグロの爽快さは得も言われぬ味わい。このときのクレンペラーは心身ともに充実の極みにあったのだろうことが容易に想像できる最高の出来。