メロス弦楽四重奏団 コダーイ 弦楽四重奏曲第2番ほか(1969.10録音)

20世紀のハンガリー音楽。
暗澹たる気配は欧州の戦禍を予見するかのようだが、一方で、民族音楽を基調にした音楽の優しさと美しさ、同時に素朴さを秘めた音調に心が和む。
ハンガリーと言えば、ベラ・バルトークであり、ゾルタン・コダーイである。

丁度同じ頃、ハンガリーの民族音楽踏査の計画を独自に進めていたもう一人の作曲家がいた。ゾルタン・コダーイである。当然、二人の若者は生涯にわたる友情を結んだが、つねに民族音楽をその根源まで辿ろうという鞏固な決意によって、その絆は強められ新たにされていった。
しかし二人は、源をどこまで遡るかについて当初から考えが異った。コダーイはハンガリー国境を越える必要を感じていなかった。一方、バルトークは採集をはじめると同時に、国境の向う側にある民族音楽についても同じように知らなければ、国内の民族音楽資料の評価に当って万全を期することは不可能だという考えを固めていたのだ。全東ヨーロッパの民族音楽を踏査しようという彼の途方もない願望は、はじめから唯一の理に適う結論であった。

アガサ・ファセット/野水瑞穂訳「バルトーク晩年の悲劇」(みすず書房)P11

2人の志向性の違いは、それこそJ.S.バッハとヘンデルの方向性の違いと相似形のように思う。確かにいずれの音楽も渋く、同時に民族性に長けている。国際的な視点と視座でより意識を拡大したのがバルトークであり、どちらかというとローカルに、つまり意識を内へと収斂したのがコダーイだった。根本的な差異はあれ、何にせよ簡潔な手法でそれぞれが20世紀のハンガリー音楽を牽引したことは間違いない。

・バルトーク:弦楽四重奏曲第3番Sz.85(1927)
・コダーイ:弦楽四重奏曲第2番作品10(1916-18)
・ヴェイネル:弦楽四重奏曲第3番作品26(1938)
メロス弦楽四重奏団
ヴィルヘルム・メルヒャー(第1ヴァイオリン)
ゲルハルト・フォス(第2ヴァイオリン)
ヘルマン・フォス(ヴィオラ)
ペーター・ブック(チェロ)(1969.10.2, 3録音)

かれこれ10年ほど前、東京クヮルテットの来日公演で聴いたときには気がつかなかったが、コダーイの四重奏曲(第1楽章アレグロ)にはショスタコーヴィチの木霊が聴こえる。民謡を基調にした音調のせいか何だかとても懐かしい音楽。あるいは、第2楽章の後半部アレグロ・ジョコーソでは緩急織り交ぜた親しみやすい音楽が聴く者の心を癒す。
ちなみに、ヴェイネルの作品は初めて聴いたが、十二音技法など進歩的な慣習際立った音楽界にあって1938年のものとは思えないほどの保守的な色合いが特長。3つの楽章の中で、僕は第3楽章フーガ:ヴィーヴォ・エ・ジョコーソに感化された。何て楽しい、心躍る音楽なのだろう。
なお、本盤はメロス弦楽四重奏団のデビュー録音だそう。選曲が実に素晴らしい。

人気ブログランキング


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む