アルゲリッチ アバド指揮ロンドン響 ショパン ピアノ協奏曲第1番(1968.2録音)ほか

「ぼくは、ぼくの恋を過去のものとして扱うわけにはいかないんだ」
わたしは、大地が足もとに口をひらいたように思った。そして、あらゆるものにしがみつこうとしていた・・・
「恋にしたって、ほかのものといっしょに過ぎ去って行ってしまうのよ」
「でも、ぼくの恋の気持だけは、死ぬまで君を思ってるんだ」
「それもだんだん薄れていくわ。あなたが愛していると言っておいでのそのアリサも、もうあなたの思い出のなかに住んでいるばかり。そのうちには、アリサを愛していたこともあったっけ、ぐらいにしか思い出されない日が来るんですわ」

アンドレ・ジッド/山内義雄訳「狭き門」P187

「煩悩即菩提」という。
悩めるアリサにとって聖俗の苦悩は測り知れなかった。
思念に執着するのが人というもの。過去心・未来心を手放さねば。

再びショパンのピアノ協奏曲。ホ短調の方は、ヘ短調の初演の直後から書き始められたそうだ。1830年はショパン20歳の年。管弦楽パートが貧弱だとの指摘はあるが、恐るべき天才がそこにはあると思う。やっぱりマルタ・アルゲリッチの天才。若き日のDGへの録音はいずれもが絶品。

悠然たる第1楽章アレグロ・マエストーソの真摯な歌(コーダの手に汗握る猛烈な推進力が最高)。そして、第2楽章ロマンス(ラルゲット)のあまりの美しさ。文字通り聖俗相まみえる当時のショパンの心情を表す対比であり、傑作だ。終楽章ロンド(ヴィヴァーチェ)も躍動感溢れ見事。

・ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11(1968.2録音)
・リスト:ピアノ協奏曲第1番変ホ長調(1968.2録音)
・ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調(1984.2録音)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団

フランツ・リストの協奏曲に今一つ関心を覚えない僕でもこの演奏の素晴らしさは理解できる。第1楽章アレグロ・マエストーソから繊細でありながら驚くべき指回りで伊達男リストの華麗なるヴィルトゥオジティを髣髴とさせる(実に表面的だが)。
ラヴェルの協奏曲はミシェル・ベロフを独奏に抜擢した左手のための協奏曲とのカップリングで88年にリリースされたものだが、指揮者もソリストも一層円熟味の増した逸品。世界はマルタ・アルゲリッチを中心に回っているのか?

力を尽くして狭き門より入れ
(ルカ伝第13章24節)

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