デュトワ指揮モントリオール響 バルトーク 弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽Sz.106ほか(1987.5&10録音)

晩年のいくつかの傑作—《弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽》(1936)、ヴァイオリン協奏曲第2番(1937-38)、《管弦楽のための協奏曲》(1943)—では、帰郷の儀式が繰り返される。各作品の最終楽章は、おずおずと離れて農民たちを見ていた作曲家がついにノートを投げ捨てて、騒ぎに加わりでもしたかのように、あきらかに解き放たれた感覚をもたらしている。弦楽器は熱狂的に踊る足の周りにもうもうとした埃を巻き上げる。金管楽器は、傾いた小さな教会の窪んだ踏み段に座ってでもいるかのように、世俗的なコラールを演奏する。木管楽器ははしゃいだ子供たちのようにガーガーと音を鳴らす。太鼓は群衆の中心で、酒に酔った青年たちの欲望を叩き出す。このネオプリミティヴな光景には、傷ついて離れていく者がいたとしても、生贄となった犠牲者はいない。帰郷の儀式は、バルトークが異郷アメリカで書いた管弦楽のための協奏曲でもっとも痛切に感じられる。トランシルヴァニアはその頃には、最後の病が作曲家を動けない状態にしていたとはいえ、バルトークがそのなかを隅から隅まで踊ることのできる純粋に心的な空間となっていた。
アレックス・ロス著/柿沼敏江訳「20世紀を語る音楽1」(みすず書房)P118

音楽をこれほどまでに具象的に見せた文章があっただろうか。あくまで比喩の域を出ないものだが、ロスのバルトーク理解の緻密さに膝を打つ。音楽という空間と心が一体になった作品群は、暗澹たる調子を垣間見せながら聴く者を虜にする。

頭脳明晰なベラ・バルトークの音楽は、意図的に(?)計算された中で創造されたものばかりだ。中でも、弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽は、例えばその第1楽章の構成は黄金比、フィボナッチ数列によって組み立てられ、しかもクライマックスは楽章全体の黄金分割点に一致するというのだから素晴らしい。彼の作品が内面はもちろん外面的な均整という意味においても完璧を期したものであったことにあらためて感動する。

知的な、感情に流されない演奏の最右翼がシャルル・デュトワによるものだ。

バルトーク:
・管弦楽のための協奏曲Sz.116
・弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽Sz.106
ルイ・シャルポンニュー(ティンパニ)
アンドレ・ゴセリン(シロフォン)
グレゴリー・ロウ、ジャック・ラヴァレー(打楽器)
ドロシー・マセラ(ハープ)
ロルフ・ベルチュ(ピアノ)
ジャネット・クリーザー(チェレスタ)
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1987.5&10録音)

第1楽章アンダンテ・トランクィロの奇蹟!

あるいは、第3楽章アダージョは、物憂げで、またおどろおどろしいながら魂の芯にまで届くような音響で(40年前、初めて聴いたときから)忘れられないものだ。そして、初演時にアンコールされたという終楽章アレグロ・モルトの生命力に満ちる劇的舞踊に心が躍る(コープランドのホウダウンにも通じる音で、実にロック的だ)。

彼の頬は燃え、目は私たちをきらきらと見つめ、口は挑みかけるような明るい微笑みを含んでいた。
「幸い、私たちは陰謀家のように頭を寄せ集める必要はないよ。」彼はつづけた。「この矛盾には答えがないからだ。過去にも未来にも解答は決してありはしない。用心深く踏みこむなどという考えは、私に決して訴えたことがなかった。その上、これは私だけの問題ではなくて、自分自身の選ばれた道を歩もうと努める創造的な芸術家すべての永劫の問題なのだ。私の作品がいずれも誤った符であるように聴こえるなど、私に理解できるはずがないし、比較的聴きやすいものを聴きにくいものと区別することなど私の能力を超えているよ。なぜなら私は源泉であり、その作品は私そのものなのだから。もっとも大きな作品からもっとも小さなものに到るまで、すべては同じ源泉から地表に滲み出し流れ出てきているのだ。ある作品では川が大海に注ぎ、またある作品では大海全体がごくささやかな小川に注いでいるのだ。そして最後に、密接に関わり合い分かち難く混り合うのだから、そのままの姿で全体として、受け容れられるなりあるいは拒否されなければならないのだ。そのいずれであるかは、時だけが語れることなのだ。」

アガサ・ファセット/野水瑞穂訳「バルトーク晩年の悲劇」(みすず書房)P236-237

晩年のバルトークの言葉は重い。自然の摂理と合致したバルトークの作品は、自身のいわば分霊であり、是であろうと非であろうと一定の時を経ないとわからないものだと彼は考えていた。彼は未来の聴衆のために真理を土台にした音楽を書き上げていたのだろうと思う。

過去記事(2014年3月4日)

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