
今から37年も前のこと。
1988年12月、朝比奈隆指揮新日本フィルのベートーヴェン・ツィクルスがついにスタートし、その劈頭を飾ったのは「第九」だった。
僕は、その日、その時、会場のサントリーホールにいたが、奏でられた音楽そのものはもちろんのこと、終演後、満員の聴衆が怒涛のような拍手喝采で繰り返し舞台に呼び戻される御大の姿にあまりに感激した。レコードやCDや、あるいはそれ以前に聴いていたすべての「第九」が吹っ飛ぶような感動。またそれは、あの頃、最も大切にしていたフルトヴェングラーのバイロイトの「第九」の感激を凌ぐ、筆舌に尽くし難い音楽体験だった。
株式会社フォンテック創業20周年記念でリリースされたこのときのツィクルス・セットは僕の宝物。(今もって一番と言っても過言でない)
久しぶりに聴いた朝比奈隆指揮新日本フィルの1988年の「第九」。
涙が出るほど素晴らしく、美しい。
まだまだ枯れる前の朝比奈御大の「第九」は、近代オーケストラの粋の限りを尽くした逸品。
近衞先生がお亡くなりになる(73年没)ちょっと前に、「私は、今は原譜通りに演るようにしているのですが」と言ったら「それは、その方がいいですよ。私のは下手なオーケストラをバカな指揮者が振っても、ちゃんと恰好がつくようにしてあるんですから。それは元のままがいいですよ」と真顔で言われたので、返事に困ってね。よく考えたら、こっちも馬鹿な指揮者なのかと思って(笑)。
金子建志「今回のチクルスにおける朝比奈のベートーヴェン観と、曲目についてのノート」
~FOCD9001/7ライナーノーツ
実に興味深いエピソード。
御大の昔話はどれもこれも面白い。
朝比奈 他に問題の所というと、あのIV楽章の「Vor Gott!」の後の、あれですよ・・・
金子 (330小節の)ティンパニだけに書かれたディミヌエンドを、するかしないかという話ですか?
朝比奈 そう。まあ色々あって。岩城かな、「原稿の写真版見たら、あれは確かにアクセント記号だった」と言う。まあそれは見たんだから、それはそれでも、いいですけれどね。躁かも知らんし。
僕らは、もっと職人的に考えますね。人間の声でいいハーモニーを伸ばしているときにティンパニの音というのは、非常に邪魔になるんですよ。ティンパニの音程が悪いとかいうのじゃなくて、ティンパニの音は所詮雑音で、本当の純粋音じゃないでうsから。ちゃんと普通の3和音が鳴っている所へ、ドロドロっていうのがffでずっと続いていると、非常に音が濁ると僕は思うんです。あれは、仮に(音量を絞るように)書いてなくても、あまり叩いて欲しくない個所の一つですよ。無いものはできないけど、幸い、書いてある(笑)。
~同上ライナーノーツ
職人朝比奈隆の真面目!!
感動が、蘇る。







