還暦を目前にしてパウル・ヒンデミットの神髄がようやく少しずつ見えてきたように思う。彼の音楽を聴いて、とにかく面白くて仕方がない。
パウル・ヒンデミットの問題作。
シリアスだが、実に人間味溢れるドラマにあらためて心動く。
何より最晩年のレナード・バーンスタインの棒なのだから。
—20世紀のもっとも偉大な作曲家たちは誰だとお考えになりますか?
L・B ストラヴィンスキー、ヒンデミット、プロコフィエフ、ドビュッシー、コープランド、バルトーク・・・20世紀が音楽的に見て貧弱だなんてまったくうそですね!
—私はひじょうに創造力に富んだ世紀だと、大変才能のある作曲家たちが創造活動を行った世紀だとつねに考えてきました。
L・B 私が名前を挙げた作曲家たちは、彼らの大半が前の世紀に生れたにせよ、皆私たちの世紀に属しています。彼らは才能と天分とを同時に持ち合わせていました。バルトークは第一級のものしか作曲できませんでしたし、彼の創作には、他の作曲家のに劣るような楽曲を見出すことは困難です。
~バーンスタイン&カスティリオーネ著/西本晃二監訳/笠羽映子訳「バーンスタイン音楽を生きる」(青土社)P103
ベラ・バルトークを絶賛する最後のインタビューでバーンスタインはそう語っている。
確かに晩年に彼が残した20世紀の作品は、すべてがバーンスタイン流、バーンスタイン色に染まっていて、だからこそどれもが素晴らしい。
16世紀ドイツの画家、マティアス・グリューネヴァルトを描いた歌劇の素材を利用し、ヒンデミットは同時に一篇の交響曲を生み出した。第1楽章は「天使の合奏」、第2楽章は「埋葬」、そして第3楽章は「聖アントニウスの誘惑」と名づけられ、聖俗混淆する音調が刻印される様に、そしていかにも人間臭く表現するバーンスタインの演奏に感動する。
いかにも頽廃的な、濃密な第3楽章「聖アントニウスの誘惑」は、ひょっとするとアンドレイ・タルコフスキーが描きたかった方法ではなかったかと想像した。そういういかにも俗っぽい表現をとりつつタルコフスキーは真理に達しようとしていたように思われる。もちろんバーンスタインの思念はタルコフスキーのそれとは違う。しかし、彼らは正反対の方法を取りながら、実は一点を見極めようとしていたのではないか、そんなことをすら思わせる名演奏だ。
さすがに戦時中の暗澹たる雰囲気がそのまま刷り込まれているかのような協奏音楽における、金管のコラールが何とも痛々しく、そして凄まじい。
白眉は、交響的変容であり、作曲家としてのレナード・バーンスタインの真骨頂。第1楽章アレグロから喜びに満ち、弾けるような第2楽章スケルツォ「トゥーランドット」はとても愛らしい。中でも、第3楽章アンダンティーノの苦悩。あらゆる感情がめくるめく表現される人間臭い音楽に言葉がない。