自然と触れ合えることの幸福。
真夏の灼熱は高原をも飲み込む。今年も相変わらず暑い。
酷寒のロシアの大地に響いたアントン・ブルックナー。
エフゲニー・ムラヴィンスキーの指揮の厳しい求心力と、その音楽の悠遠な遠心力。
あまりにも厳格過ぎて(?)長い間棚の奥に眠らせておいたが、そろそろひもといてじっくり耳を傾けてみようと思った。
・ブルックナー:交響曲第9番ニ短調
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1980.1.29&30Live)
第1楽章からいかにもムラヴィンスキー節。金管群の咆哮は圧倒的。
その音圧に負けそうになるくらい。特にコーダの人間技と思えぬパワーとエネルギーに言葉を失う。
玄侑 「この世は美しい 人の命は甘美なものだ」という、そのお釈迦さまの言葉を『釈迦』の最後にもってきていますけど、今、この世に生きていて、あの言葉を実感されますか。
瀬戸内 ほんとうにこの世は今、嫌な世の中ですけどね、81になった今、やっぱりこの世は美しい、人の命は甘美なものだと、最近しみじみ思いますね。
玄侑 無常を楽しめれば甘美で美しいのかなという気がしますね。やっぱり81年生きてこられて、甘美で美しいって言っていただくだけで、希望が持てる気がします。
瀬戸内 でも、あの世も美しいんですものね。
玄侑 あの世の美しさのリアリティがね、もうちょっと欲しいというか足りないわけですね。
~瀬戸内寂聴+玄侑宗久「あの世 この世」(新潮文庫)P183-184
ブルックナーの彼岸の音楽を、あくまで此岸で再現しようと試みたのがムラヴィンスキーの演奏だった。
第2楽章スケルツォの道化もムラヴィンスキー流。
そして、終楽章アダージョの緊張感は、甘美どころではない、あの世の厳しいリアリティの体現のよう。世界は決して甘くないのだと思う。精進あるのみ。
ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル ブルックナー 交響曲第8番ハ短調(ハース版)(1959.6.30録音) ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル ブルックナー 交響曲第7番(1967.2.25Live)ほか