ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル ブルックナー 交響曲第8番ハ短調(ハース版)(1959.6.30録音)

ムラヴィンスキーが惹きつけられたウィーンの作曲家に、ブルックナーがいた。ブルックナーは他のロシアの指揮者が取り上げていないレパートリーで、彼はレニングラード・フィルで壮大な交響曲を指揮したヘルマン・アーベントロートに感動したことを覚えていた。当時のロシアでは忘れられてはいたが、オーストリア伝統に埋め込まれた精神的かつ哲学的な音楽の大きなカンバスにムラヴィンスキーは惹きつけられ、ブルックナーの交響曲の価値を再評価させた。ムラヴィンスキーにとってこの作曲家は非常に重要だったので、首席指揮者に任命された数週間後の1938年12月24日、交響曲第4番変ホ長調《ロマンティック》を指揮し、続くシーズンには第7番と第9番を付け加えた。
グレゴール・タシー著/天羽健三訳「ムラヴィンスキー高貴なる指揮者」(アルファベータ)P114

ムラヴィンスキーにとってブルックナーは重要な作曲家の一人だったそうだが、いかんせん録音が少なく、ましてそれが巨匠にとってベストの演奏であるかどうかも判断できず、これまで繰り返し聴くこともなかった。

しかしながら、久しぶりに耳にすると、それはそれでとても歯切れの良い、軽快かつスピーディーな表現に快哉を叫びたくなるほどだ。とはいえ、日本で読むことができるムラヴィンスキー関連の文献で巨匠のブルックナーにまつわる証言は数少ない。僕の記憶ではステレオでライヴ録音された第9番については「レコード芸術」誌上でとり上げられていたくらいだから発売当時からよく知る演奏だったが、録音がより古い第8番ともなると、ほとんど無視されているかのように「何もない」(と言っても言い過ぎではないのでは?)。

古いモノラル録音ながら鑑賞には十分耐えうるもので、強いて言うならカール・シューリヒトの演奏から浪漫性を排除した、より即物的な表現がムラヴィンスキーのそれだとすることもできようか。

・ブルックナー:交響曲第8番ハ短調(ハース版)
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1959.6.30録音)

奇を衒わない、しかし、意外にテンポの絶妙な揺れを伴なう第1楽章アレグロ・モデラートから惹きつけられる。レニングラード・フィルの金管の咆哮と弦楽合奏の色香が堪らない。

一方、第2楽章スケルツォの躍動とトリオの詩情。オーケストラの見事なアンサンブルが光る。

そして、神々しいばかりの第3楽章アダージョは意外に粘るテンポで、あまりに人間的。

続く終楽章は、ブロック毎に表現様式を変え、いわば生命の蠢きを伝えんとする演奏で、そこには宇宙の広がりを体感させてくれる途方もない響きがあり、コーダの一気呵成の終結に至り生命の蠢きを髣髴とさせてくれる(こういう演奏を聴くと、以降ムラヴィンスキーがブルックナーの第8番を封印してしまったことが残念でならない)。何というドラマ!

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