ウェッバー指揮ケンブリッジ・ゴンヴィル・アンド・キーズ・カレッジ聖歌隊 ヴォーン・ウィリアムズ 3つの合唱讃歌から第3番「聖霊降臨祭の讃歌」ほか(2011.7録音) 

イギリスではいつの時代もチューダー朝(1485-1603)時代の音楽が持て囃されていたものだが、20世紀前半にはウィリアム・バードやトーマス・タリスなど、中世の宗教音楽への関心が一層高まったという。1世紀前の音楽家はこれらの比類ないレパートリーを演奏するとともに、そこからインスピレーションを得、新しい音楽を作曲することに意欲を燃やしたらしい。

文字通り「温故知新」。
おそらく人間がそもそもの本性のあり方を求めた結果なのだろうと思う。
「バードとチューダー・リヴァイヴァル」というアルバムでは、バードの「5声のミサ曲」が、20世紀の作曲家によって創作された様々な作品と対比されており、実に興味深い。

タリス・スコラーズのバード「3声、4声&5声のためのミサ曲」を聴いて思ふ タリス・スコラーズのバード「3声、4声&5声のためのミサ曲」を聴いて思ふ

指揮者のジェフリー・ウェッバーによると、ジェラルド・フィンジは、賛歌「明るく喜ばしい丘まで」(1925)の中で、バードの「アトリエの門」を引用した。無伴奏モテットの冒頭のフレーズは「わが魂にまで」という歌詞に続きオルガンで演奏される(7/4拍子の使用は、チューダー朝の音楽の多くに見出され、3拍子と2拍子のリズムグループの絶え間ない変化を表わしているようだ)。

また、シンプルな連節形式で美しく作られた合唱賛美歌であるアーノルド・バックスの「主よ、汝われらにおしえ給え」(1931)の荘厳さ。

そして、オーランド・ギボンズの有名な「歌」のひとつを、ウィリアム・ハリスは「永遠の統治者」(1930)で引用する。あるいはホルストの賛美歌「辛苦するために人々はうまれる」(1927)を締めくくる賛美歌も同じ旋法を基盤としたギボンズの別の曲が引用されていて面白い。

ちなみに、より柔軟なアプローチは、賛美歌に着想を得た以下3つの作品に確認できる。

ブリテンの「聖母への讃歌」(1930/34)では、合唱と四重唱が交互に聴こえる。
あるいは、ヴォーン・ウィリアムズは「聖霊降臨祭の讃歌」(1930)で、高音と低音の合唱にソロの声をあてている。パーシー・ホイットロックは、賛美歌「生けるパンよ、かつて死にし者よ」(1930)で、バードの有名なモテット「アヴェ・ヴェルム」のような作品の様式に近づき、軽い対位法の動きを付加しているのだ。

バードとチューダー・リヴァイヴァル
・ヴォーン・ウィリアムズ:3つの合唱讃歌から第3番「聖霊降臨祭の讃歌」(1930)
サム・ドレッセル(テノール)
・ウィリアム・ハリス:永遠の統治者(1930)
ニック・リー(オルガン)
・ホルスト:2つのアンセムから第1番「辛苦するために人々は生まれる」(1927)
・タリス:葬送音楽(マーティン&ジェフリー・ショウ編曲)(1915)
・ウィットロック:オー・リヴィング・ブレッド(1930)
・フィンジ:明るく喜ばしい丘まで(1925)
アニー・リドフォード(オルガン)
・バード:5声のミサ曲
・バード:ファンタジアハ長調第2番(ムジカ・ブリタニカ第27巻第25番)(ボーランド編曲)(1907)
アニー・リドフォード(オルガン)
・ブリテン:聖母への讃歌(1930/1934改訂)
・ハウエルズ:この日こそ(1918)
・パーソール:汝はペテロなり(1840/54)
・バックス:主よ、汝われらにおしえ給え(1931)
・ハウエルズ:タリスの預言(1940)
ニック・リー(オルガン)
ジェフリー・ウェッバー指揮ケンブリッジ・ゴンヴィル・アンド・キーズ・カレッジ聖歌隊(2011.7.8-10録音)

これらの作品はすべて「風の時代」に入ってから生み出されたものであることがわかる。
20世紀の激烈な、大量殺戮可能な戦争の時代にあって音楽家はあらためて「信」を求め、聴衆は潜在意識の中で同じく「信仰」を求めたのだと思う。
音楽のすべてが何と神々しいことか。

ケンブリッジ・ゴンヴィル&キーズ・カレッジ聖歌隊の「バードとチューダー・リバイバル」を聴いて思ふ ケンブリッジ・ゴンヴィル&キーズ・カレッジ聖歌隊の「バードとチューダー・リバイバル」を聴いて思ふ

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