
時折聴きたくなる名演の名盤。
演奏中の細かい疵など糞食らえ。
有名な、第2楽章直後の、聖フローリアンの17時を告げる鐘の音。
時空を超えて設定されていたとしか思えない天意に、アントン・ブルックナーの奇蹟を思う。
ALTUSレーベルからの無編集の音盤がリリースされたとき、僕は欣喜雀躍した。
演奏そのものについてはもはや僕が何かを書くまでもない。
朝比奈ファンならもちろん、ブルックナー・フリークにはぜひとも繰り返し聴いていただきたい録音である。

それより何より、音盤リリースに至る顛末。
40年前の演奏になるが、今聴いても一期一会の貴重なドキュメントであることが、響きの端々から伝わってくる。この録音はヨーロッパ演奏旅行に同行した平澤佳男によて録音され、ディスク・ジァン・ジァンが制作し1000部限定で発売した朝比奈と大阪フィルの「ブルックナー交響曲全集」(1978年4月発売)の特典盤として付けられたのが初出になった(当然LPレコード)。次にビクターから2枚組LPレコードで発売されたのが、1979年1月になる。これを同じくビクターでCD化して、1987年8月に発売している。今回の再発売はオリジナルのマスターテープをリマスターしたもので、音の鮮度の良さはこれまで聴くことができなかったもの。繊細な表情も隅々までとらえられていたことが、今回のリマスターで明らかになった。伝説となっている偶然訪れた第2楽章後の午後5時を知らせる鐘の音と共に、ビクター盤ではカットされていた第1楽章後の拍手も当盤には収められている。
小味渕彦之「一期一会の貴重なドキュメント—St.フローリアンに響いた朝比奈/大フィルのブルックナー」
~ALT337ライナーノーツ
第1楽章終了後の拍手は聴衆の勘違いから起こったものではないらしい。
そういえば、1992年の1月だったか、サントリーホールでの朝比奈/新星日響のチャイコフスキー「悲愴」の第3楽章終了後にも同じような現象が(何と2回のコンサートとも)起こったことを思い出す(あれは楽曲をよく知らない聴衆の勘違いだったかもしれないが)。
何にせよドキュメントとして、当日のありのままを教えてくれる録音として音楽そのもの以上に貴重だと僕は思う。

そしてまたリリースに至る経緯がプロデューサー・ノートとして掲載されており、これがまた興味深い。残された音源はアメリカ3M社製の10インチリールであり、他にも朝比奈本人が所有していたもの、そして大阪フィルのライブラリーに複数があったが、いずれもコピーだったそうだ。実際のところ、当日ORFリンツが録音に入っていたらしく、真のオリジナル音源が現存しているかどうか、今後確認していくつもりだとプロデューサーの下田智彦さんは書いていらっしゃる。
・ブルックナー:交響曲第7番ホ長調WAB.107(ハース版)
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団(1975.10.12Live)
聖地たる聖フローリアン修道院マルモアザールでの実況録音。
ハース版の、いわば「静けさ」を堪能できる屈指の演奏。残響7秒といわれるマルモアザールの効果!終演後の延々と続いたと言われる拍手も6分半ほどが収録されており、聴衆の感動が目に見えるように伝わる。


