マイヤー ヘロルト エルベン四重奏団 ベートーヴェン 2本のホルンと弦楽四重奏のための六重奏曲変ホ長調作品81b(1969録音)ほか

大作曲家は後世に傑作を遺すために創作活動をしていたわけではない。彼はひとりの人間として生き、時代と対峙し、生活費を稼ぎ、その散弾のなかで次に何を書こう、ならばこう書こう、と思索と試作を繰り返していたのである。具体的に言えば、コンサートを開いて自作を披露し収入を得ようとしても、人々と集めるということは社会的な問題であり、芸術家の創作意思とはまた別の次元である。作曲して出版し食いつないでいく、というのも社会的関わりのなかで営まれることである。作曲するとは、芸術家個人の内発的なものである(そもそもそれがなければ成立しないという意味において)だけではなく、そういった社会との接点をもって為される行為である。それが創作活動というものであり、いわば社会に向かって作曲するわけであるから、作曲内容(内発的に生み出されてきたもの)にも対社会意識といったものが反映されている。そして、これが内発でこれが社会関係といった区分ができるようなことではない。
大崎滋生著「史料で読み解くベートーヴェン」(春秋社)P7

志を内側に秘めつつも、煩悩多き泥沼の中で生き、自己を明らかにしていくことが各々に課された使命なのである。大崎さんは続ける。

ベートーヴェンはいつなんどきでもあのような作品を書き遺したわけではなく、たとえば、《ミサ・ソレムニス》の完成になぜ4年もの歳月を要したか、について語ることは、作品の本質と、そしてベートーヴェンという人間存在と、深く関わる問題で、それは書き遺された楽譜の分析からはまったく解けない設問である。その当時、格闘せざるを得なかった「パンのための仕事」、そしてそもそも生涯に繰り返されるこの言辞が持っていた意味まで掘り下げて考えないと、完成された《ミサ・ソレムニス》がいかに崇高で偉大であるかは理解できないであろう。
~同上書P7

ニールンド レンメルト エルスナー パーペ ザクセン州立歌劇場合唱団 ルイージ指揮ドレスデン州立菅 ベートーヴェン ミサ・ソレムニスニ長調作品123(2005.11.22Live)

文字通り「パンのための作品」群。
「皆大歓喜」を志に、深遠な作品を作曲する一方で、生活のためのお金を稼ぐ手段としてベートーヴェンは作曲した。すべては「ミサ・ソレムニス」と同じくらい崇高であり、偉大なのだということを今一度僕たちは確認する必要があるのではなかろうか。

明朗な音調。
若書きのものと晩年のものとに外観上の差はほぼない。
しかしながら、確かにその心は違う。

・2本のホルンと弦楽四重奏のための六重奏曲変ホ長調作品81b(1795)(1969録音)
ゲルハルト・マイヤー(ホルン)
ルドルフ・ヘロルト(ホルン)
エルベン四重奏団
フリードリヒ=カール・エルベン(ヴァイオリン)
ラルファ=ライナー・ハッセ(ヴァイオリン)
アルニム・オルラミンデ(ヴィオラ)
ヴォルフガング・ベルンハルト(チェロ)

25歳のベートーヴェンによる、珍しい編成の六重奏曲は、ウィーンでの将来を見据え、果敢に挑戦しようとする楽聖の意志に溢れる。
(第2楽章アダージョからは、本人の意思とは別に宇宙の根源からのメッセージが聞こえるようだ)

・フルート、ヴァイオリンとピアノのための10の民謡主題と変奏曲集作品107(1818-19)(1969録音)
ヨハネス・ヴァルター(フルート)
ペーター・グラッテ(ヴァイオリン)
エーファ・アンダー(ピアノ)

後期の入口でありながら、これほど可憐な音楽をベートーヴェンが生み出していたとは驚きだ。しかし、「ディアベリ変奏曲」にも通じるような性格変奏の趣きを呈し、その方法は楽聖ならではの高尚なもの。第1曲チロル風アリアから、その美しさに感動。
また、第9番アリア・エコセーズなども、経済的に窮乏するベートーヴェンからは想像もできないような素朴な旋律に感銘を受けるが、これこそ楽聖の本性なのである。

・クラリネットとファゴットのための3つの二重奏曲から第1番WoO.27-1(1792?)(1972録音)
オスカル・ミヒャリク(クラリネット)
ユルゲン・ロイター(ファゴット)

今では偽作とされる若書きの曲だが、第1楽章アレグロ・コモドは、「春」のソナタによく似た主題で、ベートーヴェン作と言われても疑いなく信じてしまうだろう。

グリュミオー ハスキル ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」(1957.1録音)ほか

個人的には、短い、哀愁溢れる第2楽章ラルゲット・ソステヌートに魅力を感じる。
「知られざるベートーヴェン」からの1枚。
ベートーヴェンはやっぱりベートーヴェンだった。

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