悲しいけれど・・・、お祝いだ

結局僕はパーヴォ・ベルグルンドの実演に触れず仕舞いだった。
―一度は1999年の夏に北欧＆ロシア旅行を計画しており、その時にマエストロが確かヘルシンキ・フィルと「クレルヴォ交響曲」と「タピオラ」というプログラムでコンサートを開く情報を得てチケットまで入手したものの事情により旅行自体が中止になったということもあった。
後悔先に立たず、後の祭り、・・・などいろいろ言葉はあるけれど、やっぱりチャンスが舞い込んだ時には迷わず行動すべきだとこういう個人的な趣味の場合を通じても諭される。聴き逃してしまった巨匠などというのはざら。所詮「趣味」の域の話だから笑い話で済んでしまうが、一生を左右するような事態の場合ならそうもいかない。
直感的に進めと思ったならばどんな事情があっても進むべし。内なる声に正直に。

ベルグルンドといえば、シベリウスの権威として名を馳せるが、先年発売されたショスタコーヴィチの第8交響曲も素晴らしいし、ヴォーン＝ウィリアムズなんかも素敵。あと、一般的にはあまり評判にならないように思うが、晩年に録音したブラームスの全集なども相当にいかす。嗚呼、本当に惜しい人を無くした。

さて、本日はベルグルンドを追悼して何を聴こうか迷った挙句、やっぱりシベリウス（笑）。
北欧の自然と呼応するオーロラの音楽。演出としてあえて暖房を切って（笑）、キーンと冷たい張りつめるような空気感を部屋に醸し出す。今夜の空には三日月が燦然と輝き、そのそばにこちらも眩いばかりの木星が見える（三日月と星、何だかトルコ国旗のよう）。

シベリウス：
・交響詩「フィンランディア」作品26
・交響詩「タピオラ」作品112
・交響詩「トゥオネラの白鳥」作品22-2～4つの伝説曲
・交響詩「レミンカイネンの帰郷」作品22-4～4つの伝説曲
・悲しき円舞曲作品44-1～付随音楽「クオレマ」
パーヴォ・ベルグルンド指揮フィルハーモニア管弦楽団（1982.5録音）

シベリウスの醍醐味はシンフォニーにあると断言できるが、ほかにも室内楽曲やピアノ曲などにも地味ながら美しく深い音楽がたくさんある。人生の早い時期に作曲の筆を折り、晩年はほとんど作品を残していないが、例えば7つの交響曲やいくつかの管弦楽曲を聴くだけでもう十分だろうと思えなくもない（自身によって破棄された第8交響曲についてはやっぱり聴いてみたかったけれど）。
ベルグルンドが1982年に英国で録音した管弦楽曲集も本当に出色の出来。音楽が有機的で、確信に満ち、聴いていてどの瞬間にも心が躍る。特に初期作品にはシベリウス独自のナショナリズムが表出され、希望に溢れたアイデンティティとしてシンパシーを覚える。
これもすべてパーヴォ・ベルグルンドの為せる業。
悲しき円舞曲が、まるで指揮者本人の死を悼むかのように響く。
悲しいのだけれどこれはワルツ、すなわちお祝いだ。

ワークショップZERO第一日目終了。人間の素晴らしさを実感する。どんなに悲しみを背負っていてもすべては必然で、その事実が必要だったことに気づけば楽になる。さあ、お祝いだ。

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