成就

純粋にただ音楽に浸るという聴き方のほかに、より音楽を楽しむ方法としてその音楽の創造者の内側を知った上で頭を使って聴くという方法もある。僕は日常ではあまり何も考えずに音楽を聴くようにしているが、時に頭を徹底的に働かせて聴かざるを得ない、そういう時も存在する。新しい素敵な音楽に出逢ったとき、そして既に聴き古した音楽だけれど今一度背景を学習し、新たな気持ちで聴いてみようと決めた時など。
大人になってからは(というより仕事にある一定の責任を背負わされ、忙しくなってからはと言った方が正しい)なかなかそういうのめり込むような聴き方ができないでいる。真に歯痒いのだけれど。
たまたま棚から出てきたカールハインツ・シュトックハウゼンの音盤を聴いてみた。
実にこれが面白い。年度最後の本日、偶然土曜日ということ、そしてひとまず今日のところは一段落、落ち着いたということでじっくり耳にすることにした。

シュトックハウゼン:黄道十二宮~星座のための12のメロディ(1974-75)
・リアリゼーションⅠ
ミヒャエル・リースラー(バス・クラリネット)
マイク・スヴォボダ(トロンボーン、ミュージックボックス、音楽監督)
シュテファン・フッソング(アコーディオン)
ミヒャエル・キーダイシュ(打楽器、ヴィブラフォン)
スコット・ローラー(チェロ)
ウォルフガング・フェルナウ(コントラバス)
・リアリゼーションⅡ
6名の即興演奏者、ミュージックボックス、テープ

おそらく音楽監督であるスヴォボダの意志だろうが、「リアリゼーション」と銘打って、シュトックハウゼンの原曲12曲とシュトックハウゼンのメロディに基づく即興12曲が混合され、いわば2つの組曲としてこの音盤には記録されている。その意図は知らない(CDのライナーを読むと、第1リアリゼーションではジャズ奏者が一般的に使うのと同様の方法、いわゆる即興というアプローチで演奏することを趣旨にしてスタートしたことが書かれているが、専門用語も使われていて読解がややこしかったので今日のところは英文を斜め読みしただけ)。
いずれにせよ、この12星座についての音楽を自分の周囲の人々の性格と星座との関係について観察、研究した上で作曲したということを作曲者自身が語っているのだから、まぁ、大変な作品で、実際に聴いてみても右左脳の両方を徹底的に刺激されるような音楽が常に鳴っているわけだから非常に興味深い。しかも、それぞれのメロディは、その長さや比率において、個々の星座の特徴と一致するように作られているというのだから、真に理解するには音楽の勉強以外に天文学や占星術についても相応の研究が必要そうでなかなか手強い。そのあたりはいつか時間がある時にでも(笑)。

ところで、シュトックハウゼンはいろいろとその思想をインタビューや書籍に残しているが、実にこれも「思考する」に値するものばかり。

・・・いいえ、私は何ら個人的には伝えていません。私はただこの超自然的世界との接触を可能にするような音楽をつくっているだけです。私が言ったように、音楽とは、人々が入り込んで内面的な自己を発見し、忘れ去られた自己を発見する、容器、媒体なのです。・・・
(カールハインツ・シュトックハウゼン、ピーター・ヘイワースとのインタビューより)


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

ご紹介のシュトックハウゼンの作品、当然未聴です。接してみたいです。

シュトックハウゼンの宇宙的な話題で強引に関連付けるのですが、若いころ何度読んでも理解出来なかった、49歳の夏目漱石が死の直前まで書いていた遺作「明暗」
http://www.amazon.co.jp/%E6%98%8E%E6%9A%97-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%A4%8F%E7%9B%AE-%E6%BC%B1%E7%9F%B3/dp/4101010196/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1333237680&sr=1-1
を、最近、作者の没年齢と同じになったのを機に読み返し、その面白さ、偉大さを発見し、とても共感する自分に驚きました。

特に、漱石晩年の境地「則天去私」
http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/idiom/%E5%89%87%E5%A4%A9%E5%8E%BB%E7%A7%81/m0u/
について、昔の自分は何もわかっていなかったと痛感しました。
まさに、漱石晩年と同じだけ年齢を重ねた今だからこそ、この、それまでの彼の作品には無い、多元的視点で書かれた未完の最高傑作を、真にしみじみと味わうことが可能になれたのだと思いました。

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雅之

漱石未完成の遺作「明暗」には、水村 美苗さんによる素敵な傑作続篇
「続 明暗」
http://www.amazon.co.jp/%E7%B6%9A-%E6%98%8E%E6%9A%97-%E3%81%A1%E3%81%8F%E3%81%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%B0%B4%E6%9D%91-%E7%BE%8E%E8%8B%97/dp/4480426094/ref=sr_1_3?s=books&ie=UTF8&qid=1333237680&sr=1-3
が有ることを、ご紹介したいです。

これは、マーラーの交響曲第10番での、クックによる補筆完成版に匹敵する出来かもです。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
漱石については僕も10代の頃にだいぶ読みました。
同じようにまったく理解していなかったと痛感したのは、数ヶ月前に久しぶりに「こころ」を読み返したときでした。
http://classic.opus-3.net/blog/?p=8434
なるほど、遺作の「明暗」などは今の年齢になって読み返すとよくわかるかもですね。
というより、漱石作品を久しぶりにいろいろとまた読んでみたくなりました。
「則天去私」についてもそうでしょうね。10代じゃわかったつもりだったかもしれません。

あと、水村美苗さんの続編、存在は知っておりましたが未読です。「マーラーの交響曲第10番での、クックによる補筆完成版に匹敵する」と聞いたら読まずにはいられません。あわせて読んでみます。
ありがとうございます。

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