アマデウスEns.&ABQのブラームス六重奏曲第2番(1987.10Live)ほかを聴いて思ふ

ブラームスの喋り方はどこか無愛想で、ぼそぼそとした感じであった。彼は話題を次から次へと広げていくようなタイプの人間ではなく、饒舌で、話をしながら自分で悦に入ってしまうようなタイプの人間と向かいあうときなどは、口をきくのも億劫そうに、しかも必要最低限のことしか話さないような印象を与えてしまうのであった。ブラームスの話すことは冷静で鋭く、常に要点をついていた。しかしそれ以上にブラームスは、言わなければならない重要なことさえも、語らないことがよくあった。こうしたことは、彼が自分自身のことを話さねばならなくなった時、ますます目立ってしまった。
(グスタフ・イェンナー「ブラームスとの日々」)
日本ブラームス協会編「ブラームスの『実像』―回想録、交遊録、探訪記にみる作曲家の素顔」(音楽之友社)P47

ヴィオラのペーター・シドロフが急逝した後、アマデウス四重奏団の残されたメンバーは間を置かず、アマデウス・アンサンブルとして演奏活動を継続した。僕はたった2回、彼らの来日時、実演に触れることができたが、それは確かにアマデウスらしい名演奏だったのだけれど、往年の演奏の輝かしさに比較するとどこか間の抜けた(?)、靄がかかったような印象だった。
プログラムがブラームスの六重奏曲だったせいもあるのかもしれない。
何しろ内声の充実度が重視されるブラームスの作品にあって、要となるシドロフがそこにはいなかったのだから。

1992年10月6日(火)19時開演
カザルスホール
・ブラームス:弦楽六重奏曲第2番ト長調作品36
休憩
・ブラームス:弦楽六重奏曲第1番変ロ長調作品18
アマデウス・アンサンブル
ノーバート・ブレイニン(ヴァイオリン)
ジークムント・ニッセル(ヴァイオリン)
マーティン・ロヴェット(チェロ)
澤和樹弦楽四重奏団
澤和樹(ヴィオラ)
大関博明(ヴィオラ)
市坪俊彦(ヴィオラ)
林俊昭(チェロ)

目の前で繰り広げられたアマデウス・アンサンブルと澤和樹弦楽四重奏団とのコラボレーションは、美しくも哀しかった。澤、大関、市坪は、作品ごとに分担してヴィオラを担当したが、果たしてアンコールは何だったか?(モーツァルト?)残念ながら記憶の片隅にも残っていない。

来日直前にリリースされたアルバン・ベルク四重奏団とのブラームスを聴いた。
僕は1966年の、セシル・アロノヴィッツを第2ヴィオラに、ウィリアム・プリースを第2チェロに迎えた録音が今もって最高の演奏だと確信するが、ライヴ録音らしい緊張感を秘め、底知れぬ明朗さを示すこの新録音も、期待に反してそれを超えることはなかった。いかに世界有数の四重奏団のコラボレーションと言えど、あくまで俄か作りだと、ブラームスの内面にある抑鬱感にまつわる純白の哀感を完璧に表現することは難しかったのかもしれない。

ブラームス:
・弦楽六重奏曲第1番変ロ長調作品18
・弦楽六重奏曲第2番ト長調作品36~第2楽章アレグロ・ノン・トロッポ
アマデウス・アンサンブル
アルバン・ベルク四重奏団員(1990.1.30Live)

それでも、アンコールで奏されたアガーテ・フォン・ジーボルトとの恋愛に絡むト長調作品36スケルツォに至っては、興に乗るアンサンブルの白熱した演奏にブラームスの内なる勇気と自信が感じられるのだからさすが。

不幸にしてその愛は実らず、ブラームスにとってもアガーテにとっても、痛々しい思い出を残した。特にアガーテはそれから10年もの間、結婚する気になれなかったという。ブラームスも後に上記の作品のなかで、A-G-A-(T)H-Eの文字を音にすることでその愛を偲んだ。そこでは切々と3回もアガーテ、アガーテと呼びかけているのである。
(坂本政明「アガーテとシーボルト」)
~同上書P88

翌年、アマデウス・アンサンブルが再び来日、今度はモーツァルトとブラームスを聴いた。
このときは、ブラームスの六重奏曲もさることながら、モーツァルトの五重奏曲が素晴らしかった。

1993年10月14日(木)19時開演
浜離宮朝日ホール
・モーツァルト:弦楽四重奏曲第4番ハ長調K.157
・モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番ハ長調K.515
休憩
・ブラームス:弦楽六重奏曲第1番変ロ長調作品18
アマデウス・アンサンブル
ノーバート・ブレイニン(ヴァイオリン)
ジークムント・ニッセル(ヴァイオリン)
マーティン・ロヴェット(チェロ)
澤和樹弦楽四重奏団
澤和樹(ヴィオラ)
大関博明(ヴィオラ)
市坪俊彦(ヴィオラ)
林俊昭(チェロ)

父レオポルトの死を目前にしての、一切の苦悩を感じさせないはずのモーツァルトの音楽にある不可思議な翳り。いかにヴォルフガングが正直者で童心の持ち主だったかがわかるような無垢な演奏とでも表現しようか。あれは忘れられない。

もう1枚、同じく来日直前にリリースされたアルバン・ベルク四重奏団とのブラームスを聴いた。六重奏曲第2番は、とても長い時間をかけ推敲され、完成された。恋の炎が内燃する、ブラームスらしい傑作。

ブラームス:
・弦楽六重奏曲第2番ト長調作品36
・弦楽六重奏曲第1番作品18~第2楽章アンダンテ・マ・モデラート
アマデウス・アンサンブル
アルバン・ベルク四重奏団員(1987.10.23Live)

シドロフの死からわずか2ヶ月後のこと。演奏は、実に素晴らしい。
語弊のある言い方だが、ブラームスの晦渋な音楽が、とても吹っ切れた印象で、不思議に心に届くのである。亡くなったヴィオリストを追悼するかのような2つのアンサンブルの奇蹟的なつながり。何という繊細さ。聴衆の熱狂的な拍手喝采がものを言う。
アンコールの変ロ長調作品18第2楽章アンダンテ・マ・モデラートは、たぶんシドロフの霊に捧げられたのだろうか。慟哭。

 

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