ガーディナーのパーセル「テンペスト」を聴いて思ふ

purcell_tempest_gardinerヘンリー・パーセルの歌劇「テンペスト、または魔法の島」を繰り返し聴いた。中世、ルネサンス期、そしてバロック初期の音楽というのはどうにも儚い。心や魂までもがあの世にもって行かれそうな様相。どんな音も透き通っていて、その上哀愁に満ちるのである。

「信仰>科学」であった当時の音楽というのは、哀しみによって哀しみを中和する、そういう機能を果たしたのだろうか。黒死病の流行や宗教戦争や、自然の極大さと人間の極小さを目の当たりにする時代は本当に生きにくかったろう。それゆえに芸術全般は人々の癒しになった。それは、悪くいえば「現実逃避」の手段だった。

シェイクスピアの晩年のテーマであった「和解」というのは、いわば「エゴ(我)」というものに焦点を当てたものだ。そこには愛憎蠢き、駆け引きが横行する。今も昔も変わらぬ人間模様。「愛」を語るのは容易いが、実践は難しい。そのことを人々に諭すかのように芸術家は想像力を駆使して作品を生み出そうとしたが、芸術家自身もその「エゴ」に呑み込まれていった。世の矛盾、ここにあり。

パーセル:歌劇「テンペスト、または魔法の島」Z.631
ローズマリー・ハーディ(ドリンダ、ソプラノ)
ジェニファー・スミス(アンフィトライト、ソプラノ)
キャロル・ホール(エアリエル、メゾソプラノ)
ジョン・エルウェス(アエラス、テノール)
スティーヴン・ヴァルコー(ネプチューン、バリトン)
デイヴィッド・トーマス(第1の悪魔、バス)
ロデリック・アール(第2の悪魔、バス)
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮モンテヴェルディ管弦楽団&合唱団

シェイクスピアは人間存在の根源がわかっていたみたい。その戯曲にかような音楽を付けたパーセルの天才。大英帝国の奇蹟のひとつであると言える。

五感から得られる証拠も(地球は球状であるという仮説を)さらに確かなものとする。もし、そうでなかったら、月食のときに、月のか形が弧状をなしているように観察されるはずがない。周知のように、月は毎月あらゆる形状をとるが・・・月食の際には、その輪郭は常に弧を描いている。そして、月食が生じるのは、地球が太陽と月にあいだに来るためであるからこの曲線の形は地球の表面の形によって決まるのだろう。それゆえ、地球は球状ということになる。・・・それゆえ、ヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)周辺の地域とインド周辺の地域はつながっており、その意味で大洋は一つであると考える人々の見解を、頭から疑ってかかるのは適当でない
リチャード・E・ルーベンスタイン著小沢千重子訳「中世の覚醒」P406

アリストテレスの言葉である。何という先見!!!そして、想像力!!!そう、すべては「五感」に備わっているのだ。そして、その力を使い、古人は音楽というものを享受した。

「テンペスト」第5幕最後のアンフィトライトとネプチューンによる二重唱と合唱

No stars again shall hurt you from above,
But all your days shall pass in peace and love.

この言葉にすべてがある。

ふと思った。
ベートーヴェンのニ短調ソナタ作品31-2の通称「テンペスト」は、弟子に「シェイクスピアの『テンペスト』を読め」と言ったことからついたものだと言われるが、果たしてこの物語と音楽がどのようにつながるものなのかこれまで皆目見当がつかなかった。しかしながら、もしベートーヴェンがパーセルのこの作品を見聞きしていたとするなら・・・、わからないでもない。第2楽章アダージョの沈思黙考、第3楽章アレグレットにおける自由と解放。何だか共通するものを感じる・・・。根も葉もない空想だが・・・。

この周辺の音楽をやらせるとガーディナーは実に堂に入る。

 


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