シュムスキー&バルサムのモーツァルトK.481, K.526&K.547を聴いて思ふ

mozart_violin_sonatas_4_shumsky377このところモーツァルト晩年の「貧困説」は果たして本当だったのだろうかと考える。少なくともそれはモーツァルト自身が具に語った事実ではなく、後世の研究家たちが文献などから想像したフィクションに過ぎない。
何より明日のパンを心配する状態で、いくら天才といえどあれほどの数多の名作を生み出せたことが驚異的。
僕は思う。
モーツァルト自身は華美を好む道楽者だったかもしれない。もちろん家族を大切にし、そして家族を十分に養っていこうとする責任感も持ち合わせてはいただろう。実際、それに間に合う十分な収入を得ていたそうだし、いくら浪費家であろうと全財産を投げ打ってまでギャンブルなどにはまる理由がない(ただし相当のストレスはあっただろうから賭け事に費やしたくなる理由もわからなくもないが)。なのに経済的逼迫を訴えているのである。

彼の最晩年のプフベルク宛幾通もの無心の手紙は、いかにも苦悩を書き記しているが、どこか冷静な部分も見られ、悪く勘ぐってしまうと(礒山雅さんが推測するように)「自分の遊ぶ金欲しさ」、あるいは「見栄」のための借金依頼だったということか・・・。

モーツァルトが着道楽であったことは、遺産として残された高価な衣装類から立証できる。ウィーン時代初期の手紙には、毎日朝6時に床屋が家に来て、7時までに身なりを整える、とあり、90年のプフベルク書簡には、洋服屋への借金が1000フロリーンあることが報告されている。彼は装身具を好み、貴族並みの馬車を持ち、高価なビリヤード台を所有していた。
礒山雅著「モーツァルト」(ちくま学芸文庫)P63

加えて彼は、できるだけ立派な住まいに住みたがる人であった。モーツァルトはウィーンで、計11回におよぶ引っ越しをしている。それは、その時点での収入が許すかぎり目一杯いいところに、住まいを借りようとするからである。
~同上書P63-64

なるほど。傑作を生み出すのに、そして日常のストレスを解消するのに多少の金遣いの荒さは仕方あるまい。結果的に、そのことによって現代の僕たちがモーツァルトの名曲群を享受できているのだから。

モーツァルトの絶頂期、1785年のヴァイオリン・ソナタ変ホ長調K.481。
第2楽章アダージョのあまりに優しき調べ。また、第3楽章アレグレットの可憐で愉悦的な変奏に夢見る思い。
ここでのシュムスキーのヴァイオリンは柔らかく、モーツァルトへの大いなる愛が刻印される。

モーツァルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ集第4巻
・「泉のほとりで」による6つの変奏曲ト短調K.360(374b)
・ヴァイオリン・ソナタ第41番変ホ長調K.481
・ヴァイオリン・ソナタ第42番イ長調K.526
・ヴァイオリン・ソナタ第43番ヘ長調K.547
・ヴァイオリンとピアノのためのアレグロ変ロ長調K.372
オスカー・シュムスキー(ヴァイオリン)
アーサー・バルサム(ピアノ)

イ長調K.526第2楽章アンダンテの透明な哀感!!何より伴奏を受け持つバルサムのピアノの雄弁さに感動。それに呼応するかのようにシュムスキーのヴァイオリンが囁くのである。
そして、最後のヘ長調K.547は、まさに貧困の最中の作品。最後の3つの交響曲とほぼ同時期に書かれているが、不思議にもここには暗さは微塵も感じられない。モーツァルトにとっては現実生活と創造行為とはまったく別世界のもので、彼はどんなにどん底にあっても音楽は明朗快活だった。
シュムスキーのヴァイオリンが弾け、バルサムのピアノが跳ねる。何という無邪気さ!何という愛らしさ!

やっぱりモーツァルトは相当満たされていたようだ。

 

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2 COMMENTS

雅之

ベートーヴェンについても、彼は確か「伝音性難聴」(だったかな)で、人の会話は聞き取りにくくても楽器の音はちゃんと聴こえていたという説が、近年有力ですよね。

クラシック音楽の世界でも、「正しい歴史認識」とは結局、後世の人々が、自分たちの都合のよいように創り上げた幻想だということなんでしょうね。

いつの時代だって、他人の真相(自分の真相でさえ!)「藪の中」で、だからこそ人間は面白いです。

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岡本 浩和

>雅之さま

>いつの時代だって、他人の真相(自分の真相でさえ!)「藪の中」で、だからこそ人間は面白いです。

同感です。
だから人間の作った音楽は面白いですよね。
それにまたいろんな解釈、感じ方があって。
ありがとうございます。

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