死を恐れることなかれ、善良なる人々よ!
自分の時間の尽きる時など、誰にもわからぬ!
時が来るなら、来るがままに・・・
ご機嫌よう、陽気に生きよう、それまでは!
終わる、終わると警告ありながら、一向に終焉を迎えることのない世界。
世界の終りの荒唐無稽。ジェルジ・リゲティの音楽は死を嘲笑し、僕たちの恐怖を弄ぶ。
双生児ジークリンデとジークムントならぬアマンダとアマンドの浮ついた恋。
炎の花、紅薔薇色に咲きほこる!
愛しあおう・・・
・・・市が我らに降り来たるまで。
愛と死の合一のメタファーか、第1場最後のシーン、アマンダとアマンドは歌いながら大いなる死ネクロツァールがいた空っぽの墓穴に二人して潜り込む。アマンダとアマンドにとって世界の終末などまったく関係ないのだと言わんばかりに。
第2場、そして第3場。世界はいよいよ混沌と化す。意味不明の、そして強烈な爆音やら叫びやら、リゲティは見事にそのカオスを音化する。
・リゲティ:歌劇「グラン・マカーブル」(1997年版)
ジュブレ・エーレルト(ソプラノ、ヴィーナス、ゲポポ)
ローラ・クレイクム(ソプラノ、アマンダ)
シャルロット・ヘレカント(メゾソプラノ、アマンド)
ヤルト・ヴァン・ネス(メゾソプラノ、メスカリーナ)
デレク・リー・ラージン(ゴーゴー候、カウンターテナー)
グレアム・クラーク(テノール、大酒飲みのピート)
スティーヴン・コール(テノール、白大臣)
リチャード・スアート(バリトン、黒大臣)
ウィラード・ホワイト(バス・バリトン、ネクロツァール)
フローダ・オルセン(バス、アストラダモルス)
マーティン・ヴィンクラー(バリトン、ルフィアック)
マーク・キャンベル=グリフィス(バリトン、ショビアック)
マイケル・レスィター(バリトン、シャーバナック)
ロンドン・シンフォニエッタ・ヴォイセズ
エサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団(1998.2Live)
そんなこととはつゆ知らず、最終場、太陽が昇り、ネクロツァールが消えるとともにアマンダとアマンドは墓の中から出て来て歌うのである。このパッサカリアの清く澄んだ美しさ、そして温かさ・・・。
ああ哀れなり、世の人々よ、
世界の終りにおびえる者よ!
我らの世界も崩落す、
されど我らにあっては、そは法悦!
なぜ滅亡を気にかける、
熱き炎がこの血潮を駆けるときに?
恐れる者は、恐れよ、最後の審判を。
我らは恐れぬ、為るがままにまかせよう!
震える者は、震えよ、恐怖の運命に。
我らにあるのは、ここそして今のみ、
ただ、ここそして今!
そして、その言葉に触発され、ゴーゴー候とメスカリーナは「ただ、ここそして今!」と叫び、アマンダとアマンドは最後にかく歌う。
生こそ、愛の最上の姿。
愛する者こそ、生を何よりいとおしめ、
愛しあうとき、時の流れは
ひたと止まる。今が永久に、永久が今に。
サロネンの指揮は相変わらず鋭い刃物のようだ。理知に富み、感情を極力抑えども、実に色艶ある有機的な音の流れを再現する。
愛に満たされた魂は永遠に死なないのだ。
これまでにたった1度きり、1997年8月にザルツブルク音楽祭を訪れた時、町の至る所にこのオペラの大々的な宣伝広告が掲げてあったことを思い出す。プレミエ公演だったのだ(残念ながら、その時の舞台には触れていない)。それから半年後、同一キャストによるパリ・シャトレ座での本公演は大成功だったと言われる。熱い・・・。
※太字対訳はすべてライナーノーツ澁谷政子氏の訳による。
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この曲も残念ながら未聴です。
それにしても、岡本様の「輪廻」や「月」にこだわられるバックボーンは知りたいなあ。
というのも、イスラム教も、その世界観をよく学べば、どこが魅力で、どうして皆、死を恐れないか、なぜ世界で信徒が爆発的に増えているのか、そしてその分、今キリスト教が衰退している理由が、よく理解できるからです。
何事も、お互いのバックボーンをよく理解することが、相互の不信感をなくす鍵になると思います。
そして、宗教はすべて愛だと思います。
唐突ですが、岡本様は心霊写真を信じますか?
https://www.youtube.com/watch?v=EEbO_awILtE
https://www.youtube.com/watch?v=GR_MmxImy8A
>雅之様
あらゆる宗教の源は同じく愛ですよね。
仏教も深く知れば死は肯定的なものとして捉えることができます。
>何事も、お互いのバックボーンをよく理解することが、相互の不信感をなくす鍵になる
同感です。
今度お会いしたときにでもお話しいたします。
ちなみに、心霊写真は信じます。あまり好きではありませんが・・・。(笑)
なぜこんなコメントを書いたかといえば、岡本様のブログ本文から、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/45630_23908.html
を連想したからです。
この「詩」の最後は、
南無無辺行菩薩
南無上行菩薩
南無多宝如来
南無妙法蓮華経
南無釈迦牟尼仏
南無浄行菩薩
南無安立行菩薩
で締めくくられているんですよね。学校では教えず、どの教科書でも削除されていますけれど、これがあるかないかでまったく詩の持つ意味合いが変わってきます。宮沢賢治の文学は国柱会
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E6%9F%B1%E4%BC%9A
の思想抜きには語れないはずです。「銀河鉄道の夜」に現れる謎の「天気柱」も、法華経由来のようですしね。
でも、宮沢賢治ファンの多くは、この事実を積極的に語ろうとしません。
そして宮沢賢治も、あの東日本大震災の心霊映像を見たら、きっと信じたでしょうね。
>雅之様
なるほど、そういうことでしたか。
賢治の思想的背景には法華経、国柱会があるのは知っておりましたが、「雨ニモマケズ」の最後の経文については知りませんでした。
であるなら、とても腑に落ちます。
ありがとうございます。
何れ近いうちに雅之さんとは一献交えないとですね・・・(笑)
[…] 乱(?)の様子にこそ生の喜びがある(と感じるのは僕だけか?)。 圧巻は、歌劇「グラン・マカーブル」からアリアをコンサート用に抜粋編曲した「マカーブルの秘密の儀式」(スト […]