ツィマーマン バーンスタイン指揮ウィーン・フィル ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番ほか(1989.9Live)

男性的なるものと女性的なるものの調和。
彼の中には常に天地が蠢き、それに連動するように楽想が芽吹いていたのだろうと思う。
ベートーヴェンの推敲のほどがうかがえる。
音楽家は生きるために創造する。
一方で、後世にまで多大な影響を及ぼす渾身の作品が目白押し。
いわゆる「ハイリゲンシュタットの遺書」を乗り越えた後のベートーヴェンの創造力は空前絶後の破壊力を持つ。

ピアノ協奏曲第3番ハ短調の萌芽ははるか1796年初春にまで遡る。
それから8年の歳月をかけ、(1801年の大幅改訂作業を経て)完成をみたのは1804年7月だといわれる。当時ベートーヴェンの体調は決して芳しいものではなかった。
弟カール宛の(末弟ヨハンに代筆させた)手紙(1803年3月26日付)には、「私はもう18日も非常に激しいリューマチ熱で床に伏している」とある(大崎滋生著「ベートーヴェン 完全詳細年譜」(春秋社)P141)。ちなみに、いわゆる「クロイツェル・ソナタ」がジョージ・ブリッジタワーの主催コンサートで初演されたのは同年5月24日。

一見したところ、彼(ベートーヴェン)は私たちに非常に強いインパクトを与えますね—ナポレオン即位を知って「英雄交響曲」のスコアを破り捨てるなどしたように。内面においては、彼は非常にフラジャイルで、不安を抱えた人間でした。
(クリスティアン・ツィマーマン)

いかにもベートーヴェンらしい、抑圧された精神が、空想的安寧を経て解放される様。
ここでのツィマーマンの演奏は、巨匠バーンスタインの掌中にあり、しかしその中で夢幻の拡がりを持つもので、35年近くを経てもまったく色褪せない名演奏だと僕は思う。何より堂々たる第1楽章アレグロ・コン・ブリオの集中力! そして、第2楽章ラルゴの夢見る、しかし決して表層的でない心からの希望に満ちる歌(耳疾を吹き飛ばし、熱烈な恋に走るベートーヴェンのヒューマニティ)。終楽章ロンド(アレグロ)の喜びの解放!

ベートーヴェン:
・ピアノ協奏曲第3番ハ短調作品37
・ピアノ協奏曲第4番ト長調作品58
クリスティアン・ツィマーマン(ピアノ)
レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1989.9Live)

一方、1803年にスケッチを開始し、1806年7月に完成をみたピアノ協奏曲第4番ト長調。
おそらく聴衆を驚かせたであろう、独奏ピアノによって開始される第1楽章アレグロ・モデラートの言葉にならない構成美! あるいは旋律美!
何よりベートーヴェン自作のカデンツァを、心を込めて歌うツィマーマンのピアノに感動する。

先のツィマーマンのインタビューでの言葉を反芻する。
フラジャイルな性格であったがゆえの絶対性。また、不安を抱えていたであろうゆえの希望に満ちた光の音楽。源泉が暗黒であったとしても、昇華され、アウトプットされるときの光明こそベートーヴェンが楽聖とあだ名される所以なのだと僕は思う。
バーンスタインもツィマーマンも天性の楽天家だ。その二人が精魂込めて協奏するベートーヴェンが悪かろうはずがない。34年を経ても歴史に燦然と輝く人類の至宝。

過去記事(2016年12月26日)「ツィマーマン&バーンスタインのベートーヴェン協奏曲第5番「皇帝」(1989.9Live)を聴いて思ふ」
過去記事(2014年8月25日)「ツィマーマン&ウィーン・フィルのベートーヴェン第1&第2協奏曲を聴いて思ふ」

人気ブログランキング


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む