「遊び」

goldberg_uri_caine_ensemble.jpgどんな仕事でも多少の「遊び」の部分は必要だろう。最近はマニュアル化されたものをマニュアル通りでないとこなせない若者が増えているのだという。否、若者に限らず、言われたことを言われたとおりにしかできない人が多いのだと。企業活動においては気の利いたサポートや痒いところに手の届くホスピタリティというものがどんなときにも大事なのだと思うが、大量生産・大量消費の大企業的経営を目指すと、いかに効率的に儲けるかだけが先行し、本来必要である部分までもが削り取られてしまう。例えば、「人を育てる」ということ。それにはマニュアルは適応され得ない。本来は仕事を通して人と人との「関係性」の中で知らず知らずのうちに学んでいくものだから。

優秀な人材は得てして「のりしろ」のあるある意味アバウトな仕事のやり方を好む傾向にある。もちろん成果はきちん出すという前提で。多少の無駄があったとしても、その無駄と思えることが将来的な蓄積になるということが「どこか」でわかっているから。会社に勢いがある時、その中で働く人たちが常に喧々諤々と議論し、時には共に笑い、時には怒鳴りあいの喧嘩をしながら事が進んでゆく。そういう人と人との「絡み」が少ない(あるいはない)会社は下降線を辿る。仕事をする上で「遊び」の部分はやっぱり大事だ。

人が精神的に病む時も同じである。あまりに几帳面すぎる人は「きちんと寸分違わずできない」自分を許せなくなるらしい。コンピューターではないのだから、人間のやることに誤差があって当たり前なのに。時には「まぁいいか」と言える自分になるのは生きていく上で大切なことである。僕などは、どんな時にも「まぁ何とかなるだろう」と昔から能天気なところがあり、怒られたり心配されたものだが、結局今の今まで何とかなっているのだから、「やるべきこと」さえわかっていれば何とかなるものなんだと心底思う。要するに「自分軸」をぶらさず、根を詰め過ぎないでゆっくりと確実に事を進めていくことがわかっていれば必ずや「成る」のである。

最近、若年でいわゆるリストラにあう人が多くなっているように思う。ここ1ヶ月ほどで何人も相談があるくらいだから世間は余程だろう。そういう時いつも僕がアドバイスするのは「そういう会社を早く辞めることができて良かったね」ということ。そういう目に遭う人に限って自分の軸を定めず、ただ「会社のために」と称して邁進しつつも「良いように使われている」場合が多いと思うから。

バッハの音楽はどんな風にアレンジしてもやっぱりバッハである。本来チェンバロのために書かれた「ゴルトベルク変奏曲」。今から50年以上前に録音され一世を風靡したピアノによるグールドの演奏はもちろんのこと、15年位前だったかに発売されたシトコヴェツキー編曲による弦楽合奏バージョンも優れものである。この音盤は今でも時折取り出しては楽しんでいるが、冒頭のアリアも、そして変奏のどの部分も聴いて飽きることがない。そして極めて美しい。
そして、今日はとっておきの「遊び」に溢れた「ゴルトベルク変奏曲」を。

J.S.バッハ:「ゴルトベルク変奏曲」
~ユーリ・ケインの編曲、作曲による様々なアンサンブルのためのアリアと70の変奏曲
ユーリ・ケイン・アンサンブル

CD2枚に及ぶぶっ飛びのアルバム。真正のクラシック好きには受け容れがたいかもしれぬが、これこそバッハの音楽を縦横無尽に切り刻み、その普遍性を見事に体現した傑作であると僕は思うのだ。真面目くさって鍵盤に向かうことだけが音楽をすることではない。まさにその字の如く「音を楽しむ」、そういうパフォーマンスをやってのけるユーリ・ケインに乾杯である。是非一度そのライブに接してみたいものだ。

そういえば、このゴールデン・ウィークには今井信子等が弦楽三重奏版による「ゴルトベルク」を披露したと聞く。そのことを知った時には既にチケットは完売。残念無念・・・。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
今、福井、石川、富山への出張の最中で、金沢にいます。
>このゴールデン・ウィークには今井信子等が弦楽三重奏版による「ゴルトベルク」を披露したと聞く。そのことを知った時には既にチケットは完売。残念無念・・・。
それは残念! 
でも私も、ピリスのリサイタルが名古屋でもあることを知った時には既にチケットは完売、残念無念・・・、でした(爆)。
http://www.shirakawa-hall.com/calendar005.html
今夜は石川県立音楽堂コンサートホールでも何もやってなかったしなあ!・・・しまった! 今日は、仕事の予定を浜松にしとくんだった!!
「クリスチャン・ツィメルマン(ツィマーマン) ピアノ・リサイタル」に行けたのに・・・。
http://www.hcf.or.jp/event/zimerman_piano/
いつも仕事に絡めていろいろ行くのに、このところすべて気が付くのが後の祭りで、空振りばかりです・・・。
ご紹介の盤も未聴ですが、そういう「遊び」ができるのも、バッハならでは、ですね。ぜひ、聴いてみたいです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。いいですねぇ、北陸出張!羨ましい限りです。
ピリスのコンサート名古屋であったんですね!それは残念でした。しかも今日はツィマーマンが浜松でやっていたとは!!
>このところすべて気が付くのが後の祭りで、空振りばかりです・・・。
こういうチェックは僕も昔ほどきちんとしなくなってしまいました。やっぱりコンサート情報はしっかり追っておかないと後悔しますよね・・・。

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