Pink Floyd “A Momentary Lapse Of Reason”(1987)ほかを聴いて思ふ

すべては必然の集合体なのだと思う。
一片が欠けたとき、すべては終る。
ピンク・フロイドは、少なくとも”Wish You Were Here”まで、統制のとれた、組織として最高の状態にあったバンドであった。”Animals”以降は、ロジャー・ウォーターズの、どちらかというと独善的な集団として機能する、ウォーターズの陰の側面があまりに強過ぎた、ある意味バランスの悪いバンドと化した。
当然、バンドは解体した。

1980年代後半、ロジャー・ウォーターズ抜きのピンク・フロイドが再生を果たした。
それを真正のピンク・フロイドとして認めるかどうかはこの際横に置く。あの頃、初めて聴いたときもそう、もちろん今も僕の見解は変わらない。音楽としてはわかりやすい、ポップなアルバムなのだが、ピンク・フロイドらしからぬ明快さだけが表面化した、ロジャー的暗澹たる曲調がスポイルされた、何とも中途半端な印象が相変わらず否めない。
ピンク・フロイドは、ロジャーのあまりに自己中心的な、そして、あまりに赤裸々な内面告白があってのバンドだったのだと思う。

“A Momentary Lapse Of Reason”は、ウォーターズが”The Final Cut”で示した、細切れの、そしてあまりに重い作品の対角線上にある、あるいは、その反動としてギルモアが生み出した、(ほとんどロジャーのソロ・アルバム然とした)The Final Cut”の相似的アルバムであるように僕は思う。
(リックすら正式メンバーとしてクレジットされていないのだから)もはや終わった後の残骸と言うべき作品だというのは言い過ぎかもしれないが、ピンク・フロイドはロジャー・ウォーターズがいて、デイヴ・ギルモアがいて、またニック・メイスンとリック・ライトがいてのバンドだった。

・Pink Floyd:A Momentary Lapse Of Reason (1987)

Personnel
David Gilmour (vocals, guitars, keyboards, sequencers)
Nick Mason (electric & acoustic drums, sound effects)

それでも、久しぶりに聴いて懐かしくはあった。
プログレッシブ・ロックが(潜在的にせよ)(少なくとも僕の中では)まだ熱かった時代。

1990年3月2日金曜日の夜、NHKホールで僕は待ちに待ったバンドの音を聴いた。
アンダーソン、ブルーフォード、ウェイクマン、ハウ。ジョン・アンダーソンの歌唱が美しかった。リック・ウェイクマンのキーボードも、スティーヴ・ハウのギターも、もちろんビル・ブルーフォードのドラムスも、すべてが夢に見た通りで、演奏された過去の名作のすべてが神々しかった。しかし、何かがやっぱり不足していた。
数十年ぶりに耳にした”Anderson, Bruford, Wakeman, Howe”を聴いて思ったのは、クリス・スクワイアのいない寂しさとでもいうのか、あの繊細で重厚なベース・プレイとアンダーソンの歌に色を添えるコーラスが、いわゆるイエスというバンドにとって不可欠であったのだということ(このバンドでは代わりにトニー・レヴィンが参加しているので、別の意味で素晴らしいのだけれど)。あの、黄金期といわれるイエスの布陣は、後にも先にもない奇蹟だったのである。

・Anderson, Bruford, Wakeman, Howe (1989)

Personnel
Jon Anderson (lead vocals, production)
Bill Bruford (Tama acoustic drums, Simmons SDX electronic drums)
Rick Wakeman (keyboards)
Steve Howe (guitars)

ただし、ここに収録される楽曲の完成度はいずれも半端でない。
各々のプレイヤーの超絶テクニックと、恐るべきアンサンブルが一体となった傑作。過去を振り返らないのであれば、これほど音楽的かつ密度の濃いアルバムはなかなか出まい。例えば、”Quartet”における、冒頭ハウのアコースティックに感化され、その後に続くジョンの歌に思わず涙がこぼれる。
一層美しいのは9分に及ぶ”Order Of The Universe”での、親しみやすいイントロの後の壮大なコーラスと、ジョン・アンダーソンの雄叫びの如くの激しいヴォーカルの熱。30年近くを経た今も新しい。

そして、1990年代中頃に、みたび蘇ったキング・クリムゾンの奇蹟。

キング・クリムゾンにしかプレイできない音楽が生まれると、遅かれ早かれキング・クリムゾンは登場してその音楽をプレイする。

クリムゾン復活にあたってのフリップの言葉である。
彼のこの言葉を象徴するように、ダブル・トリオ編成の強烈な音に当時僕は狂喜乱舞した。
同時に、1995年10月5日木曜日、中野サンプラザで初めて聴いた彼らの生音に言葉にならないくらい感動した(あの興奮は今も忘れない)。
“VROOOM”の、一切を切り裂く先鋭的衝撃。
“Sex Sleep Eat Drink Dream”では、エイドリアン・ブリューの80年代以上にバンドと同化した、なくてはならない存在としての声に凄みを覚えた。”Thrak”は、70年代を髣髴とさせるメタル・クリムゾンの真骨頂。

・King Crimson:VROOOM (1994)

Personnel
Robert Fripp (guitar)
Adrian Belew (guitar, vocals)
Tony Levin (bass guitar, Chapman Stick)
Trey Gunn (Chapman Stick)
Bill Bruford (drums, percussion)
Pat Mastelotto (drums, percussion)

ちなみに、”When I Say Stop, Continue”の、ほとんど一発どりの即興ギグのような生々しい強力なエネルギーにバンドの底力を思い、ひれ伏さざるを得ない。
何にせよ過去にとらわれない方が良い。常に革新を生み出してこそプログレッシブであるゆえ。

 

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