ヒリヤード・アンサンブル ジョスカン・デプレ モテット&歌曲集(1983.2録音)を聴いて思ふ

聖なる歌も、あるいは俗世の歌も、ジョスカンの手にかかると美しさの極み。

フランドル楽派による正統派ルネサンス・ポリフォニーは、ジョスカン・デプレの世代によってその芸術的頂点に達した、と言うのは金田敏也。
4声による「アヴェ・マリア」など最美の極致。
人の声の複合体(混成体)とでもいうのか、無伴奏合唱のあまりの純粋無垢な響きに、それだけで幸せな気持ちになる。

ジョスカン・デプレ(1440頃~1521)は、その死から間もなく500年を迎えるルネサンス中期に活躍したフランドル楽派の作曲家。時空を超え、天才の音楽は人々に刺激と感動を与えてくれる。無心の信仰とでもいうのか、そこには神々への感謝しか感じさせないという奇蹟。

ジョスカン・デプレ:モテット&歌曲集
・アヴェ・マリア(4声)
・わが子、アブサロン(4声)
・聖霊よ来たりたまえ(6声)
・深き淵より(4声)
・スカルメルラが戦争に行く(4声ジョスカン・デプレ)/スカルメルラが戦争に行く(4声ゴンベール)
・主よ、私はあなたに期待した(4声)
・こおろぎは良い歌手(4声)
・はかりしれぬ悲しさ(4声)
・かわいいしし鼻娘(カミュゼット)(6声)
・私は嘆く(5声)
・茂みのかげで、朝 (3声)
・愛さずにはいられない(5声)
・オケゲムの死を悼む挽歌(5声)
ヒリヤード・アンサンブル
デイヴィッド・ジェームズ(カウンターテナー)
アシュレー・スタッフォード(カウンターテナー)
ポール・エリオット(テノール)
レイ・ニクソン(テノール)
ロジャース・コヴィー=クランプ(テノール)
ニコラス・ロバートソン(テノール)
ポール・ヒリアー(バス)
マイケル・ジョージ(バス)(1983.2.14-16録音)

旋律とリズムとハーモニー。
縦の線と横の線が絶妙に絡み、そして自然のゆらぎの中で音楽は熱を帯びて流れてゆく。

音は刹那にしか存在しない。宇宙ロケットの発射音も、名刹古刹の鐘の音も、いちど出てしまったら、もう取り戻せない。ロケットは、たとえ使い回しのきく機体であっても、いちど発射すれば劣化するし、そうでなくても発射時の天候等によって燃焼パターンが異なるのでエンジン音はその都度異なるはずである。僧侶が撞く鐘にしても、晴雨・温度・湿度・風向などによって条件は変わってくるし、撞き手の体調によっても音は変化する。
(石原俊「オーディオの効用」)
「考える人」季刊誌2007年夏号(新潮社)P76

音楽の実体をつかむのに、やはり実演こそが鍵になる。
しかし、すべての音楽がそう簡単に実演で触れられるかと言えば、否。その意味では、たとえ音の缶詰であっても「音盤」が長期にわたって僕たち人間に与えた影響は計り知れない。音盤あってこそのルネサンス音楽だといっても過言ではないだろう。

オーディオにはいくつかの効用がある。その最たるものが、時間軸からの解放である。いまこの曲が聴きたい、という欲求が、オーディオ装置を介することによって手軽にかなえられるのだ。・・・(中略)・・・同じ曲を繰り返して聴くことができるのもオーディオの効用である。クラシック音楽の場合、これはとくに有効だ。
~同上誌P78

「時間軸からの解放」とは言い得て妙。ジョスカン・デプレが美しい。

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