ラフマニノフ、メンデルスゾーン、シベリウス

sibelius_bernstein_5.jpg「皐月会」と称する内輪の誕生日会が開催されるというので参加した。どういうわけか会場は川崎市にあるミューザ川崎の市民交流室。往復の車中で「ユリイカ」の今月号を広げ、斜め読みする。つい先月から伝記映画が公開されているのに乗じているのだろうが、特集はラフマニノフ。この作曲家については1月の講座で第2協奏曲をとりあげた際、ほんの少しだが勉強した。今日もざっと読みながら考えたことは、つい先日の講座のテーマであったメンデルスゾーンにどこか通じるものがあるのではないかということである。時代も違えば場所も違う二人の天才作曲家は一見、作風も違うし、交わるところなど何一つないように思えるのだが、直感的にそう感じたのである(根拠はないので、その辺は突っ込まないでください)。

ラフマニノフは幼少時よりその才能を発揮し、周りからも神童扱いを受けた天才型で、学生時に既に後のラフマニノフの代名詞ともなる名作「前奏曲嬰ハ短調」を書き上げている。22歳の時に創作した交響曲第1番は自信作であったにもかかわらず、諸々の事情により初演失敗。そのことが遠因となり神経衰弱に陥り、自殺まで考えたほどに何年も悩まされたという。最終的には催眠療法を受けることでその状況を脱出するのだが、復活のきっかけともなったのがかの名作ピアノ協奏曲第2番。以降、ラフマニノフの音楽はロマンティックで美しい旋律を持った映画音楽のようなイメージを一般大衆にもたせることになるのだが、彼の本質が本当にそこにあるのかは甚だ疑問だ。
今でも失敗作のレッテルを貼られている先の第1交響曲は、確かに晦渋でとらえどころのない音楽だが、一部の専門家の間では「最高傑作」なのではないかとの評価もあり、こういう音楽こそがラフマニノフの本質であり、本来の姿、精神なのではないかと最近では僕も考えるようになった。

余りある才能の奔流をそのまま音化したのが交響曲第1番であり、時代が追いつかなかったのか、はたまた初演の指揮をしたグラズノフの問題なのか、いずれにせよその瞬間には受け入れられなかったという事実により、自己否定に陥った作曲家が大衆に迎合するべく「作られた枠」の中で創った音楽(言い過ぎかな??)が、例の第2協奏曲なのではないか、と考えるのはどうだろうか・・・。これは、決して第2協奏曲が駄作だと言っているのではない。もちろん名作であり、傑作である。しかし、本当に作曲家が目指そうとしていた姿は、むしろ交響曲の方にあったのではないのか。深遠な精神性を秘めた大傑作というものはそもそもわかりにくいものなのではないのかとも考えることもできるのである。

メンデルスゾーンも、幼い頃からもって生まれた才能を発揮し、傑作を次々に残し、38年の生涯を走り抜けた。とはいえ、どうも一流作曲家としてはじけきれない弱さを一方で感じる。その「弱さ」の根源は、もっぱら彼の持つ「優等生性」にあるのではないか。親のレールに乗り、一切反抗しなかったという受動的な生き方。「社会通念」から決してはみ出すことのない真面目さ(そのお陰で職業指揮者としての偉業を成し遂げ、マタイ蘇演に一役買っているわけだから一概に否定はできないが)。創造者とは、本来「枠」にはまりきらない独創性をもっているものであり、メンデルスゾーンは本来自分が望むべき姿、望んだ通りの作品を世に送り出せていないのではないか・・・。
そんなことを考えていると最寄り駅に着いた。当然、結論は出ない。このあたりは、もう少し深く考察する必要があるかもしれない。

ラフマニノフ、メンデルスゾーンのことをあれこれ考えつつ、駅を出て、歩きながら頭の中で鳴っていたのはどういうわけかシベリウス。ラフマニノフとは同世代で、しかも北国に生まれ育ったという共通点はあるものの、二人が産み出した音楽は形も内容も異質。暗くわかりにくい音楽が多いが、ひとたびはまればその世界に釘付けになってしまう傑作を数多く残している。

シベリウス:交響曲第5番変ホ長調作品82
レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

シベリウスの交響曲の中でも、シベリウスらしい独自性をもち、かつ精神性の高い名曲がこの第5番。ベルグルンドやセーゲルスタムの演奏も素晴らしいが、鈍重で意味深いこのバーンスタイン盤を意外に僕は好む。現在聴かれている音楽は改訂版でそもそも最初に発表したバージョンよりも余計な部分が削ぎ落とされ、スマートな構成になっている。ともかく何度聴いても飽きない「内に秘めたうねり」を感じる音楽なのである。北国の人間が持つ独特の「暗鬱さ」が時折パッショネイトにはじける様は聴きモノ。

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