共鳴。
人と人とが真につながるとき、それは起こる。
意図しようが、しまいが、起こるときは自ずと起こる。
1850年8月28日は、音楽史にとって飛び抜けた重要性を持つ日だ。《ローエングリン》の世界初演が行われ、それがリヒャルト・ワーグナーの経歴において転機となったのである。作品の成功とリストの飽くことのない熱意は、完全に打ちひしがれた作曲家に希望を甦らせ、いくつかの大胆な計画を進める野心を新たにさせた。
~アーサー・M・エーブル著/吉田幸弘訳「大作曲家が語る音楽の創造と霊感」(出版館ブック・クラブ)P135
フランツ・リストの、愛人マリー・ダグーとの間の子どもであったコジマは、後にワーグナーと結婚する。
不可思議な縁と言えばそれまでだが、彼らの間には言葉に表せない共鳴がそもそもあったとしか思えない。
「リストは、あえて《ローエングリン》を上演しようとすることは、決してなかったでしょう」フォン・ミルデ氏は断言した。「もしも、彼が大公妃の精神的な支えを得ていなければ。というのも、その頃ワーグナーは追放者で、逃亡の身だったのです。例の革命に加わったということで、逮捕令状がザクセン王国から発行されており、ドイツの全王室からは危険な政治的煽動者とみなされていました」。
~同上書P136
もちろんそれはリストの天才的先見といえるだろう。そこにはある程度の計算もあったのかもしれない。しかし、リストのその助け舟こそがワーグナーの人生そのものを変えたのだとするなら、それはただならぬ過去世からの因縁としか思えない奇蹟だ。
エレーヌ・グリモーの「レゾナンス」、すなわち「共鳴」と題するアルバムは、時折耳にしたくなる傑作だ。何より選曲の妙。久しぶりに聴いて、やっぱり唸った。
中でも、リストのソナタロ短調の哲学的激性(リストの最高傑作をこれほど共感をもって、そして没頭して弾き切るピアニストが他にあろうか)と、バルトークの水も滴るルーマニア民俗舞曲の純化!!すべてがあまりに透明だ。