ツィマーマン リスト ピアノ・ソナタロ短調(1990.2&3録音)ほか

晩年のリストは、自分のための時間をほとんど持つことができなかった。絶えまない来訪者と毎年約2千通にも上る手紙の返事に追われたのだという。

作曲以外の用事で移動に追われることも少なくなく、そのすべてを自費でまかなっていたため、経済的にも厳しくなっていました。当時のリストの作品はそれほど売れているわけではなかったのです。
堀内みさ・山本一太著「作曲家ダイジェスト リスト」(学研)P84

とことん前衛的に傾きつつあったリストの晩年の作品を大衆は拒否した。
若き日は破天荒でまた自由闊達。そして、突如として華やかなキャリアを捨て、僧職に就くという選択。凡人からは想像もできない生き方を常に選択した彼は、大変な慈善家であったという。内なる魂に常に語りかけ、懺悔を繰り返したフランツ・リスト。

最も困難な日々においても、キリスト者であることに唯一の至福を感じる者には、確かな平安があるのである。
パトリック・カヴァノー著/吉田幸弘訳「大作曲家の信仰と音楽」(教文館)P115

癒しと安らぎを求めたリストの、若き日の華麗なる作品とは真逆の、後期の神々しいばかりの作品が(抹香臭く?)美しい。

リスト:
・ピアノ・ソナタロ短調S.178(1853)(1990.2&3録音)
・灰色の雲S.199(1881)(1991.3録音)
・夜S.699(1866)(1991.3録音)
・悲しみのゴンドラS.200(第2番)(1883)(1991.3録音)
・詩的で宗教的な調べS.173~第7曲「葬送曲」(1849)(1991.3録音)
クリスティアン・ツィマーマン(ピアノ)

猛烈な技巧の披露。現代音楽を得意とするツィマーマンの真骨頂は、わずか3分強の「灰色の雲」。世俗を捨て、同時代の人々に受け入れられることよりも、未来を見据え、神に捧げる作品を紡ぐリストの本懐をこれほどまでに精密に、そしてじっくりと築き上げた演奏があろうか。音楽のベクトルは内を向く。それゆえにとてもわかりにくい。だからこそ、一たび神髄を知れば、一生の至宝となるのである。
あるいは、娘婿であるリヒャルト・ワーグナーの(わずか6週間後の)死を予言し、書き上げた「悲しみのゴンドラ」にまつわる不吉な思念と浄化の粋。「トリスタンとイゾルデ」の木霊聴こえるその音調(ここで「トリスタン」を選択するセンスに乾杯!)の透明さと、装飾を排した自然体の響きに、そして、ツィマーマンの愁える打鍵に僕は思わず感動する。

いや、しかし、待て。「前衛」とは一体何ぞ?

さらに最晩年には、酒量も増えていた。リストは若いときかあ、酒とたばこをのむ習慣があったが、この時期には毎日コニャックを一、二本とワインを二、三本飲んでいたらしい。さらにアブサンという、かなり質の悪いアルコールも常用していたようだ。この酒は、1830年代にパリに入ってきて、知識階級に普及し、失明や記憶喪失、中風などをひきおこしたといわれており、そのため第一次世界大戦中に、フランスでは禁止令が出た。ゴッホ、ロートレックも常用していたアルコールである。
福田弥著「作曲家◎人と作品シリーズ リスト」(音楽之友社)P171-172

リストの(特に晩年の)作品の、一見難しく見える前衛性は、良くも悪くもこの質の悪いアルコールによる幻覚や幻聴のせいもあるのかもしれない。

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