カラヤン指揮ウィーン・フィル ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロ」(4幕版)(1958.7.26Live)

ヴェルディは老いらくの恋をして、耳に心地よい名曲《アイーダ》を作曲した。しかしあれには深みがない。これじゃ歴史的にワーグナーより低く見られると感じたのだろう。素振りを充分にした後に、文豪マンゾーニの死を悼んで《レクイエム》を作曲した。ここでヴェルディは変身した。
永竹由幸著「ヴェルディのオペラ 全作品の魅力を探る」(音楽之友社)P367

官能というか、スケベ心(?)というのは一種病気のようなもので、そう簡単に治るものではなかろう。しかし、そういう一面がヴェルディの創造力を一層喚起しただろうことに違いない。

リコルディも、まだまだ元気なヴェルディにもうひと働きしてもらいたがっていた。若気の至りを恥じるボーイトを連れてサンターガタにやってくる。ヴェルディは《シモン・ボッカネグラ》の台本を改訂させて、多くの部分を作曲し直してみた。すると古びた作品が名作によみがえった。1881年68歳の時だった。これならまだいけると思ったヴェルディが、最終的に改訂しておこうと思ったオペラ、それが《ドン・カルロ》だったのだ。この改訂に当たってはヴェルディはボーイトを起用しなかった。何故なら、この曲はフランス語が原曲だから、フランス語台本を書いたカミーユ・デュ・ロクルがサンターガタに呼ばれる。そしてこれを4幕版に書き替えさせた。
~同上書P368

家族の関係は往々にして過去の因縁、すなわち怨恨や仇の業の解消を目的として、再び邂逅するというものが大概のようだ。婚約者エリザベットを父王に奪われた王子ドン・カルロと、二人が天国で会うことを訳して永遠の恋人となるという悲劇の物語。
ヴェルディが晩年に書き直したリコルディ版「ドン・カルロ」の素晴らしさ。
カラヤンがウィーン・フィルを率いてザルツブルク音楽祭で披露した舞台の記録が、推進力に富み、またエネルギー漲り、美しい。

・ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」(イタリア語4幕版)
エウジェニオ・フェルナンディ(ドン・カルロ、テノール)
チェーザレ・シエピ(フィリポ2世、バス)
エットーレ・バスティアニーニ(ロドリーゴ、バリトン)
セナ・ユリナッチ(エリザベット、ソプラノ)
ジュリエッタ・シミオナート(エボリ公女、メゾソプラノ)
ニコラ・ザッカーリア(修道士、バス)
マルコ・ステファノーニ(大審査官、バス)
ウィーン・国立歌劇場合唱団
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1958.7.26Live)

第1幕から、時間の経過とともにカラヤンの生み出す音楽は俄然熱さを増してゆく。
当時、よく耳にしていたワーグナーの管弦楽を意識してのヴェルディの徹底的な歌による主張を見事に音化するカラヤンの魔法。悲劇を悲劇としてリアルに、また徹底的に抉る若きカラヤンの棒はさすがに感極まり、隅々まで力がこもる。
第4幕最後のシーンにおいても、悲劇とは思えぬ、否、悲劇だからこその生命力を伴って音楽を懸命に奏し、歌い切るオーケストラや歌手の力量はさることながら、それらを統率するカラヤンの能力に言葉がない。

ところで、晩年とはいえ、ジュゼッペ・ヴェルディの精力は一向に衰えそうにない。凝縮された音楽美に、カラヤンの繊細な解釈、そして、当時一線で活躍する歌手たちの野心漲る歌唱などが一体となったライヴの醍醐味。モノラル録音とはいえ、音は実に聴きやすい。

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